９話目 ページ10
薬研は医学の知識が多少あるらしく、手慣れたようにレトさんを診ている。
内番の時の服らしい白衣に身を包んで、まるで医者のように聴診器も肩にかけていて、俺はその様子をじっと見ていた。
「慣れない霊力を使ったせいで疲れただけのようだな。暫く安静にしたら良くなるだろう」
「っはー……よかった。ありがとな、薬研」
「なぁに、これくらい。こっちも手入れしてもらったんだしな、気にするな」
短刀とは思えないその物言いに軽く驚く。大人びた雰囲気も相まって……本当に短刀なのかこいつは。
俺よりも３０センチくらい低いはずなのに、見た目は完全に儚い美少年だ。なのにさっきレトさんを抱き上げた事といい……。子供…ではないのか？
「俺達短刀は見た目は子供のなりをしているが、お前たちよりもずっと歳は上だぞ？」
「ぅええ！？まじんこ？えっ、何歳…なんだ？」
「そうだな…俺っち達藤四郎はだいたい７００くらいか？」
嘘だろ……一桁違うどころの話じゃねぇ。
……あ、そっか、付喪神、なんだっけ？したらそんなに歳がいくのも納得だ。
今日はもう疲れてるだろうしってことで、残りの仕事は明日またやることになった。
「じゃあ俺っちはあっちに戻ってるからな。レトルトが起きたらなんか食わせるなりして明日に備えて体を休ませておいてくれ。明日はもっと疲れるだろうしな」
「あ、おう！サンキューな薬研！」
これまた男らしく颯爽と部屋を出ていく薬研に手を振って見送る。
やることもなくなったし、何すっかな……。あ、レトさんが起きた時になんか食わせるもの作っとっか。
キッチンに行って冷蔵庫を見てみると大体の食材は揃っているようだった。
他にも調理器具も、見知ったものから何に使うか分からないものまであった。
栄養のあるものったって、俺に自炊の経験はほとんどない。
どうしようかと手をこまねいていると、玄関からノックする音が耳に入ってきた。
一体誰だと玄関に行ってドアを開けるとホストのような黒いスーツに身を包み、右目に眼帯を付けた燭台切光忠がいた。
「あ、光忠さん？どうしたの？」
「やぁ、さっきぶりだねキヨ君。実は薬研君に、キヨ君たちのご飯を作ってきてほしいって頼まれてね」
神がいた。いや、実際神様なんだけど……。料理が苦手な俺にとって光忠さんが来てくれたのはすごく有難かった。
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作者名：ルート√ | 作成日時：2018年6月12日 22時
