【月迷】さをしか【CS】 (ページ7)

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備考ページ7

あるところに、
自らを土地神と称して村に居付く、一匹の性悪妖怪がいた。
大した権能は何もない。ただ、里に降りて人から見つかったとき偶然雨が振ったのと、その時妖怪がとっていた姿が立派な風体だったので、何かと有難がられ、祀り上げられていただけの話。
調子に乗ってしばらくは面白おかしく暮らす妖怪。しかし、その生活も長くは続かなかった。村を日照りが襲ったからである。

しばらく経って、妖怪は里一番の労働力になっていた。元々気が小さく、人に絆されやすい質である。罪悪感に絶えられなくなったからと人に手を貸すのは、そんなにおかしな話ではなかった。
今までの贖罪とばかりに妖怪は奔走するも、日照りと飢餓の前には焼け石に水。むしろ、里では雨の神として通っていたため、村人からの懇願の視線は妖怪をより居た堪れなくさせた。
妖怪は悩んだ末、角の一本を対価に水を呼ぶ妖怪に雨を降らせたのだった。

ここまでなら話はめでたしめでたしで終わる。
しかしなんの不運か、たまたま様子を見に来た村人に本性を知られてしまう。
さらに、それまで己の姿を偽ってきた事が仇となり、妖怪は「神」から一転、「神を食った化物」とされ、村の人々から敵意を向けられることになる。
残念なことに誤解を解くことはままならなかった。
何故ならその時妖怪は、片角を失くした反動で眠っていたから。
そうして、神だったものは、本人のあずかり知らぬ内に化物として退治された。
もう片方の角も失って。

しかし、彼はそのことを朧げにしか覚えていない。
角は力であり、同時に記憶であったために。

死に体の元神が真正の神に召し上げられたのは今より二百年前のこと。
それ以前の記憶はなく、姿も思考能力も幼子同然。
以降はとある妖怪の手によって育てられたと語る。

養父の口調をまね、仕草をまね、生業をまね、生き方をまね、そうしてできた彼こそ、今の桑無だ。

桑無自身はあずかり知らぬ話、彼の実年齢は千を超える。
彼は角を折られた後、人間への恨みから堕ちかけていた所を神に拾われ、そこから四百年ずっと眠っていた。
妖怪のために作られた国の気は、心の傷はともかく、少なくとも体の傷は癒やしたようだ。

彼には覚えていることが2つある。
1つはぬるい雨に降られる記憶。
1つは武器を持った人間が憎々しげにこちらを見る記憶。
どちらも思い出す度に痛みをはらんで角がうずく。

桑無は、未だにそれらとどう向き合うべきか測りかねている。