【アルスマグナ】トキメキ症状【短編集】 (ページ1)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:4,496 hit

雨ページ1

「あちゃ～…傘…持ってないよ…」

土砂降りの雨。

止む気配は全くない。

湿った音が絶え間なく響き、大きな水の粒が激しく地面に打ち付けている。

天気予報では晴れるって言ってたのに…

空を見上げ、ため息を吐く。

すると、

「A、傘無いの？」

びっくりした。

後ろから聞こえた声の正体は神生アキラ。

左手には使い込んだ様子の長傘が握られている。

私は実は彼のことが好き。

「うん…」

私は少し居心地が悪くなり、肩を竦めて小さく答えた。

「じゃあ俺の傘入れてやるよ。」

一気に身体が熱くなり心拍が上がる。

平気な顔でそんな事がよく言えたものだ。

「え？いやいや！申し訳ないよ。走れば寮まですぐだし、多少濡れるくらい大丈夫だから！」

私も負けじと平然を装ったつもりで断った。

しかし、

「いいからこれ使えって。制服染みになるし、髪濡れたら傷むだろ。"女は髪が命"だろ？」

そう言って優しく笑って見せた。

折角の相合傘のチャンスを棒に振るのは勿体無い気もするが、好きな人とそんな事をしたら恥ずかしさに打ちひしがれてどうにかなりそうだ。

現に今も恥ずかしさがその容量を超えて溢れかえっている。

「で、でも私そういうの気にしないから…！本当に大丈夫！心配してくれてありがとう。」

よし、完璧な断り方だ。

これならアキラくんも大人しく引き下がってくれるだろう…

…と考えた私の思考はまだまだ甘かったようだ。

「だーめ。Aが気にしなくても俺が気にするの。それに風邪でも引いたらどうすんだよ。俺がこんなに心配してるのAだけなんだからな。」

降りしきる雨が更に高鳴る鼓動をその音で掻き消した。

身体はまだ熱いまま。