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「耐えて……いいのか……そっか」
それは闇ではなく、希望の光として彼を照らした。その光の中に臣は大切な人の姿を描いた。
「大丈夫、信じて。健二郎くん、俺は負けない。信じて」
記憶の中の彼に何度も囁いた。
だからお願い。苦しまないでと。
もう文字通り八方塞がりで何も出来ないのかと思って屈服した心に、次第に力がみなぎってくる。
彼を思う気持ちの眩しさに、頭にかかっていたモヤが少しずつ晴れていく。
身体は拘束されていても、心は自由だ。
まだ、やれることがある。
情けないほどの非力でも、心の強さだけは誰にも負けない自信があった。
下がっていた顎を上げた。
せめてみっともなくても足掻いてやろう。
彼はできる限りのことをして身体を動かした。時間をかけて何度も身を捩り、無計画に身体を跳ねさせてるうちに、固定されていた椅子の足がガタガタと鳴りはじめた。
外まで響きそうな音がした。
それでも部屋には誰も戻る気配はない。
その事が更に臣の心を勇気づけた。
暴れれば血は沢山流れるのかもしれない。
死期が近づくのかもしれない。
だけど囚われの姫みたいに大人しくただ待つだけなんて、できるわけがなかった。
そして。
ヤケになって後ろに一気に体重を傾けた時、彼は椅子諸共バランスを崩した。
がたん、と一層大きな音を立てて椅子が倒れ、背に受けた衝撃に息を呑んでいる間に、続いてバシャンと水が跳ねる音がして右肩と顔にぬるい水が直撃した。
「やったぁ……」
水分を含み、布の目隠しが緩む。
見たくないものを見てしまうことを覚悟しながら、臣は背もたれに後頭部を擦り付けて目隠しをずらしていった。
「……え?」
最初に目に入ったのは天井で、それから軽く頭を上げて下げていった視界に入った部屋の壁には所々に黒く変色したような染みがあった。けれど。
「切られて……ない?」
予想していた赤い色はどこにもなくて。
臣は混乱した頭をくるくると働かせながら忙しく瞬きした。どう考えても、理解不能。
だけど、わかることもある。
「あの最初に見せられたヤツに、まんまと思い込まされた、ってことか」
悔しげに呟きながら、こぼれた水と倒れた衝撃で緩んだ手足の拘束を解いていく。
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霙(プロフ) - かたはまさん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえると凄く嬉しいです…!期待に応えられるように頑張りますね、これからもよろしくお願い致します! (2020年4月21日 1時) (レス) id: 1c76571629 (このIDを非表示/違反報告)
かたはま - すごい面白くて、世界観に引き込まれます!これからも、楽しみにしてます! (2020年4月18日 23時) (レス) id: 9a78e2b3a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霙 | 作成日時:2020年3月3日 15時