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涼太は重い扉を開き、そっと外へと抜け出した。それから足音に気をつけながら、走り出す。
ホールを避けさせた北人の意図は分かっていた。"お互いに"余計なことを考えている暇はないからだ。気にしあって共に自滅しては走る意味がなくなる。
ただ頑張れと祈るだけだ。
「頼むから無事でいて……っ」
みんなに向けて、そう思った。
関係者以外立ち入り禁止区域から出て、ホールの外周を走る。途中途中に見える扉に中が気にならないかと言われれば嘘だけど、今は北人の指示に従った。
『あ、』
施錠された建物の出口、全てのスタートのあたりに涼太が到着した時、北人が急に驚いたような声を上げた。
「どう……した？」
その声に立ち止まった涼太は、息を落ち着かせるように深い呼吸を繰り返し、バッグのポケットに差していたペットボトルの水を少し含んで北人に問いかけた。
「北人……？」
『や、なんでもないです。それより、涼太さん息切れすごいけど大丈夫？』
「はは。……さすがにこの歳になると、普段の生活で……ダッシュしたり、しないもんな」
「こんなに走ったの、いつぶりだよ」と涼太が軽口を叩くと『あの』とひどく真剣な声で北人から呼びかけられた。
『……まだ、走れますか？』
「ん？」
『まだ、足掻けますか？』
迷うような問い掛けに、北人がやはりあの時に何かを知ったのだと感じた。それに対してどうすれば最善なのかを必死で考えていると。
詳しく説明している暇もないのなら、答えはひとつしかない。涼太は息を呑み込んだ。
「いいよ。何をすればいい？」
『でも』
「俺を、信じてるんでしょ？俺も、お前の判断を信じるよ」
涼太は背を壁に預けて手にしたハンドガンに視線を送った。いつでも撃てるようにって手に持つだけ持って、結局は飾りのように何の役にも立たせていなかったそれを目の前に掲げる。
(必要なら、使ってやるよ)
誰かを守るために暴力を必要としない世界に生きてきたけれど、それしか守る方法がないのなら、もう躊躇はしない。
颯太の時に何もしてやれなかった後悔は、まだ胸の中に新しくあるから。
「北人、指示を」
──俺は負けない。助けると約束したから。
その誓いを胸に、涼太は北人に呼びかけた。
わかりました、と返した北人の声は少し掠れていた。
『なるべく、大きな音を立ててください。──鬼の注意を引きつけるくらい、大きな音を』
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霙(プロフ) - かたはまさん» コメントありがとうございます！そう言ってもらえると凄く嬉しいです…！期待に応えられるように頑張りますね、これからもよろしくお願い致します！ (2020年4月21日 1時) (
レス) id: 1c76571629 (このIDを非表示/違反報告)
かたはま - すごい面白くて、世界観に引き込まれます！これからも、楽しみにしてます！ (2020年4月18日 23時) (レス) id: 9a78e2b3a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：霙 | 作成日時：2020年3月3日 15時
