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「……よかった」



颯太はゆっくりと振り返ると、腰ほどの高さのバルコニーにもたれかかった。
そして、じりじりと獲物を追い詰めようとする二体の鬼に鮮やかに笑いかけると、軽く跳んでバルコニーに腰掛けた。



「残念でした。捕まってあげない」



このまま落ちれば、誰の足枷にもならずに済む。
怖さはなかった。
目を閉じ、頭をじわりと後ろへ下げた。



「颯太!!」



その声はホールから聞こえてきた。
動きを止め、ちらりと視線を向けた颯太が見たのは、ハンドガンを携えた涼太の姿だった。



「やめろ!颯太が死んだら亜嵐くんはどうなる!?俺達が絶対に助けるから、今は……っ」

「なんで……亜嵐さんが?」



苦しげなその叫びに、颯太は戸惑った。自分がどうなろうと、一番どうとも思わなそうな人なのに。馬鹿だなって鼻で笑ってそれで終わりそうなのに。


──でもあの人は、誰にでも優しいから。



「っ……!」



一瞬の動揺の隙を相手は見逃さなかった。左右から両腕を捕まれ、引きずり降ろされ、颯太は逃れようともがいた。

こんなの違う。 こんなんじゃ、ダメなのに!



「颯太!!」



涼太が鬼に向けて照準を合わせようと銃を構えていた。その顔は、焦りと迷いの中にあるように思えた。
そんな彼に向けて、颯太は叫んだ。



「涼太さん!僕は平気だから、右奥の控え室に行って!亜嵐さんを手伝ってあげて!!」



僕なんかのために、傷を負わなくていい。



「臣さんを、助けてあげ……っ!」



みぞおちに与えられた衝撃に、颯太は息を詰め、身体を折ってその場に崩れ落ちた。
咳き込む彼の耳に、涼太と、この状況が見えないはずの北人が懸命に彼の名を呼んでいる声が聴こえたような気がした。

情けないな。

やっぱり僕は、足手まといになってしまうのか。

鬼を道連れにして木っ端微塵になれたらいいのに。
何も持たない彼はそんなことを思いながら、せめてもの意趣返しに、最後の力を振り絞った。

全力の悪意で鬼の片割れの頬を立ち上がりざまに思い切り引っ掻いた颯太は、代償として他の鬼から背を蹴られ、皮肉にも抱きつくようにして鬼に捕まった。

白い首に厚みのある浅黒い手が掛けられ、そして宙にその身体が吊られる。



「なんだ。────じゃないじゃん」



鬼を見下ろした彼は、疲れた声で微かに笑って呟き、ゆっくりと瞳を閉じた。


反撃の狼煙、転落の足音→←△



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(プロフ) - かたはまさん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえると凄く嬉しいです…!期待に応えられるように頑張りますね、これからもよろしくお願い致します! (2020年4月21日 1時) (レス) id: 1c76571629 (このIDを非表示/違反報告)
かたはま - すごい面白くて、世界観に引き込まれます!これからも、楽しみにしてます! (2020年4月18日 23時) (レス) id: 9a78e2b3a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2020年3月3日 15時

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