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亜「第二幕の開始ってことかよ」
亜嵐は映像の消えた壁を殴った。
尖った雰囲気をまとった彼を、少し後ろから見ていた颯太は、背負っていたバッグをおろして中身を確認した。
中から水の入ったペットボトルを取り出し、少しだけ口に含んだ。
亜「呑気に水なんか飲んでる場合なの」
その気配に気づいた亜嵐が颯太に言い放つ。そんな彼を目を眇めて見つめ返し、ペットボトルの口を閉めた。
颯「ちょっと、行ってこようかと思いまして」
亜「え?」
理解できないと眉を寄せる亜嵐から視線を外し、颯太は水のかわりに取り出したインカムを装着し、煙幕が仕込まれたカプセルを手に持った。
颯「真偽がわからない以上、何とかするしかないかなと」
亜「……ちゃんと説明してよ」
亜嵐が颯太の腕を掴んだ。彼の顔には先程とは違う意味の焦燥感が浮かんでいたが、颯太はそれを目にすることなく彼の手をやんわりと外して、バッグを背負った。
それから彼は片手でバリケードにしていたソファーをずらし、扉を開くスペースを確保した。
颯「まぁ、亜嵐さんはここで待機しといてください。僕の考えが合ってるなら、ここはきっと安全だから」
亜「ちょ、待てって、俺も!」
慌てて亜嵐はソファーに置いていたバッグに手を伸ばそうとした。けれど「ダメです」と突き放す声が彼の動きを止めた。
顔を上げると、ドアノブに手を掛けた颯太が亜嵐を見ていた。
颯「二人とも捕まったら勝てなくなりますよ。亜嵐さんは、臣さんを助けないと」
彼はそう言ってくしゃりと笑った。
そして、躊躇することなく扉の向こうに消えた。
その顔が、泣きそうな顔に見えたから、亜嵐はそこから動けなかった。
「アイツ……何、考えて」
嫌な予感に亜嵐は呟き、彼の言葉を反芻した。そして、心臓をギュッと直接掴まれたような感覚に見舞われた。
『二人とも捕まったら』
──アイツは、捕まる気なのか?
「あの、馬鹿……っ!」
亜嵐は慌てて廊下に飛び出した。
けれどもう、颯太の姿はそこにはなかった。
舌打ちをして引き返し、バッグを漁ってインカムを取り出した。勢い余って一度落とし「あぁ、もうっ」と苛立ちながら耳につけ、電源を入れる。
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霙(プロフ) - かたはまさん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえると凄く嬉しいです…!期待に応えられるように頑張りますね、これからもよろしくお願い致します! (2020年4月21日 1時) (レス) id: 1c76571629 (このIDを非表示/違反報告)
かたはま - すごい面白くて、世界観に引き込まれます!これからも、楽しみにしてます! (2020年4月18日 23時) (レス) id: 9a78e2b3a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霙 | 作成日時:2020年3月3日 15時