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ああ、彼女とはやはり昔、何処かで会っているんだ。それを何度か再認識した機会はあった。けれど肝心の確信には、以前至れないままだ。ここまでくれば、彼女の正体を知ってしまいたい。きっと「あなたの名前は？」と一言聞いてしまえば済む話なのだろうけれど、どうしてか無意識的に、それを聞くのは憚られるのだ。
「ねえ、七瀬」
彼女が何度も�犲契キ瓩伴�分のことを呼ぶのは、きっと�犲契ヅ鍬瓩世辰深�分の印象が強いからで。仮に彼女が赤の他人ならば、自分の容姿を見ればまず真っ先に�犇緇鬮瓩噺討屬世蹐Α�自分の姓が七瀬であったことを知っているのは、日本中に沢山いる自分を認知している人間の中の、ごく一部のみである。
「何？」
「疲れたよね、ごめん」
「だから謝るなら初めからこんなことしないで。迷惑だったのは分かってるんでしょう」
そう。迷惑。迷惑だ。
せっかくの休日。買うものは日用品とはいえ、久々にゆっくり買い物でもできたら、なんて思っていた計画は、突然道端で声を掛けてきたこの女に狂わされてしまった訳で。
迷惑な、筈なのに。
「私さあ、多分＿＿」
彼女が発した言葉が衝撃的すぎて、なんと返したら良いのか分からない。沸々と沸き上がって来るこの感情は、一体。喜怒哀楽のどれにも当てはまらないような、色々なものが入り混じった、複雑な感情。だけれども、その成分を分析する事はできなくて、主成分すらはっきりしない。
最早困惑の色すら隠しきれない自分になど目向きもせずに、彼女はそのまま言葉を続ける。初めは余計に混乱する、と待ったを掛け始めたが、彼女のつむぐ言葉のお陰で、次第にその感情の主成分は見え始めた。
それは、間違いなく「怒り」。
「私さ、高校辞めちゃったの。何が理由って訳でもなくて、前日までは普通に通ってたんだけどね。でも何でか知らないけど、次の日にはきれいサッパリ辞めちゃってた。退学届一方的に叩き付けて、それ以降は不登校」
「……は、」
「でも別に、私にはそれなりに仲がいい友達もいたし、今でも連絡取ってるし。学校何で辞めたかも聞かれたりしたんだけど、改めて考えてみると理由ってわかんないんだよね。変でしょ」
つらつら、聞いてもいないのに彼女はひとりでに語り出した。突拍子のない話だったけれど、沸いた怒りのようななにかが、再び困惑に変わることは無かった。
＿＿七瀬のこと、好きだったんだよ
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