嘘をもうひとつだけ《iwfk》

ふうかとひかる ページ34

その日の仕事終わりにスマホを開くと、見知らぬ人から連絡が来ていて。

ふうかこんにちは!昨日スーツをお借りした者です!その節はありがとうございました!


『…えっ！？』


電車の中で思わず大声を出してしまい、急いで口元を抑えた。


…これ、ふっか？だよな？


ふうかって…あ、ふっかだから、ふうかか(笑)

安直すぎるネーミングセンスに笑ってしまう。


それにしてもまさか本当に連絡してくれるとは…しかもわざわざふっか本人とは違うアカウントを作ってまで。


ふっかの考えることは分からないままだけど、もうちょっと泳がせてみようと思った。


とにかく連絡は途絶えさせずに、上手くふっか、もといふうかちゃんを誘い込む。


幸いなことに、ふっかは恐ろしいぐらい流されやすい。
それがふっかの良い所で悪い所でもあるんだけど。


そしてなんと見事にご飯の約束までこぎつけることに成功した。


『…まじか。』


え…また女装して来てくれるってこと？


戸惑いしかないけど、またあのふっかの女装が見れるんだと思ったらいつものふっかとのご飯よりもワクワクしている自分がいて。



張り切って向かった当日の待ち合わせ場所。ふっかはまた女装姿。

だけどこの前の派手なものとは違って、上品で落ち着いた服装だった。


メイクまできっちり施していて、それが俺だけのためにわざわざ頑張ってくれたものだと考えると思わずニヤケてしまう。


『…ふふっ。』


深「え…？」


『あ、いや…まさかふうかさんが食事の誘い受けてくれるって思わなくて…

嬉しくて。また会えて嬉しいです、ふうかさん。』


ぜんぶ、本音。

嬉しくて、今日のふっかが可愛くて。



微笑んだ俺を見るのは珍しいのだろう、ふっかは目をまん丸にして驚いていた。


そして火照った顔を隠そうと俯いたふっかに、柄にもなくときめく。



康二への嫉妬心なんかは消えていて、今日はとにかく目の前の“女の人”を少しでも楽しませようと決心した。



だけどお店に入ってからは話の流れで仕事を聞いても話を逸らされて。


『ふっかさんのこと知りたいんだけど。』


そう言ってふっかを見つめてみても、



深「…私のことなんか聞いても面白い話はないから…」


悲しそうな顔で、呟くふっか。



…そんな顔すんなよ。

本当のこと言ったら楽なのに。



言えないんだよな、もう後には引けないんだよな。






…それも、俺のせいなのかな。



少しだけ胸が痛くなる。

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