【曖】 ページ3
深澤さんに連れられて,車に乗り込む。
その少しの時間でさえ,なんだがドキドキした。
深澤「そういえばさぁ,お姉さんの名前聞いてなかったわ。」
『…水空優愛。優しいに愛って書いて,ゆあ。』
深澤「優愛か…。いい名前だね。」
『皮肉ですよね。名前は愛に溢れてるのに。』
深澤「皮肉,かぁ。でも、確かにその時は愛されてたんだと思うよ。」
『…そうですね。』
深澤「家は?送ってくよ。」
『この住所です。』
深澤「了解」
ゆっくりと、2人を乗せた車は走り出す。
深澤「優愛はさ、これからどうするの?」
『…仕事も辞めちゃいましたし。』
今日死ぬからと思って辞表出してきたから、誰かさんのせいで、職無しなんです。
深澤「じゃあさ、うちのグループのマネージャーやってくれない?最近人手不足で大変なんだよね。」
『…いいんですか?』
深澤「逆にお願いしちゃっていい?ハードだけど。」
『…私にできることがあるなら。』
深澤「ありがと〜!まじ助かる!あ、その代わり、黙っといてね。」
『分かってますよ。』
深澤さんは優しい。
けど、その愛を自分に向けてないのは、見てわかる。
…愛って難しい。
愛されてるっていう確証もなければ、その実物すらないのだから。
だから私たちはいつまで経っても愛を見つけられないのだろう。
深澤「はい、到着。」
『…ありがとうございました。』
深澤「あ、待って!…はい、これ。」
そう言って、見せられたのはQRコード。…確かに、交換してなかった。
『あ、そうですよね。』
読み取ると液晶に表示された“深澤辰哉”の文字。
家に帰ってベットに転がってもずっとその文字を見つめている。
無色だった私の人生に、少しずつ色がつき始めた。
そんなぼんやりとした予感がした。
270人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ひな | 作成日時:2023年12月20日 17時