壁越しの恋人 【kzh】

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その日の夜はなかなか寝付けなかった。




長かった夜が明けて、久しぶりに心地よい土曜日を迎えた。



午前中のうちに身支度やら準備を済ませておこう。



本当に楽しみでたまらなくて、久しぶりにフレンチトーストを作ってみた。


少しついてしまった焦げ目も、なんだか今日は笑って許せる。




それから少しだけ勉強をして、着ていく服を考えて、必要なものをポーチにいれ、13時になるのをひたすら待った。




14時集合のはずが、楽しみすぎて思わず足が早くなり約束の20分前に着いてしまった。




やばい、人の家の前で20分間立ち往生するのはさすがに不審者だよね……？




あと20分間もどこで暇つぶししようか、と考えていた時。




ガチャ。




扉からいつもの音がした。




この音が聞こえるってことは、鍵が開いた？

………それにしてもこの扉、どういう仕組みで人が来たのを察知してるんだろう。





これは入っていいよという意味なのだろうか。







考えるだけ無駄か。なんて思いながら、ゆっくり扉を押した。






『…葛葉くん？おじゃまするね…！』






念の為そう呟き、靴をそろえて階段を上る。





この階段を上るのも、もう何回目だったっけな。




葛葉くんや叶くんと一緒に過ごす時間は楽しい。




静かな廊下を歩き、突き当たりの部屋の前に立つ。




『葛葉くん、隣の部屋入るね…？』




扉越しに呟いてみるが、果たして聞こえているのだろうか。

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