【仁王雅治】恋するペテン師は苦難中【テニスの王子様】 (ページ7)

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「おーい」

呑気な声で顔を上げれば、目の前に座る赤髪の男子が俺を睨んでいた。

「…ったく、やっと気付いたぁ」

そう言うと、同じクラスであり部活のレギュラー仲間である丸井ブン太は椅子に座り直した。

「…悪い、考え事しとった」

俺がそう弁解すれば、未だに怪しそうな目線を向けてくる丸井が頬杖をつく。

「ふーん…。あ、さては仁王、お前悩み事でもあんだろぃ？」

「さぁ、どうじゃろな」

丸井のドヤ顔に俺がそう答えたタイミングで、丁度よく授業開始のチャイムが鳴った。

未だに不服そうにする丸井は、「ま、何かあんなら聞くから教えろぃ」とだけ言い残して俺に背中を向ける。

…悩み事、というより、俺は、昨日の放課後の女子の事が気になって仕方がなかっただけだ。
これは悩み事というべきなのか、何なのか。

そんな事を考えていると、突然外から黄色い悲鳴が聞こえてきた。

振り向けば、視界の先にある運動場にはサッカーをしている男子数十人と、陸上競技をしている女子数十人の集まりがいた。

体育の授業中なのだろうが、そんなこともお構い無しに女子の四分の三程の人数は、男子が行っているサッカーに夢中だ。

…とはいえ、先程の悲鳴は何だったのだろう。
そう思いつつ外から視線を外そうとした瞬間、またもや黄色い悲鳴が聞こえて、俺は再び視線をそちらに向けた。

＿すると、青髪を風に靡かせた少年が優雅且つ綺麗に、シュートを決めた瞬間が目に入る。

「…幸村か」

元々から端正な顔立ちをしていると女子の中で噂であったが、これ程の人気だとは。

…幸村がおるんなら、今は3年C組の授業か。

それを認識すれば、俺は反射的にもう一度女子の集団の中に目を向けた。

＿3年C組の高宮Aです。

昨日、その言葉を俺に言った彼女の存在は、俺の視力をもってすればすぐに見つけられた。

幸村のギャラリーには混じらず、何かのメモを取りながら座っている様だ。

…すると、2階から注がれる俺の視線に気付いたのか、彼女は顔を上げた。

＿目が合う。

彼女は俺の事をきちんと認識してくれているのだろうか。

不安が募るのと、授業中という事が重なり、手が振れずにいると…彼女はこちらを見て優しく微笑んだ。

「……」

それを見て、言葉に詰まる。
…どうしたんじゃ、仁王雅治。お前らしくない。
と、自分自身で突っ込んでみる。

…あぁ、本当に今日の俺はどうかしてるぜよ。

そう思いながらも、俺も口の端だけで彼女に微笑んでみせたのであった。