【仁王雅治】恋するペテン師は苦難中【テニスの王子様】 (ページ5)

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「…よし、こんな感じで大丈夫ですか？」

「おん、ばっちりや」

ボールいっぱいに溢れたカゴを、俺は部屋の隅に戻す。

「…ふぅ、疲れたのぅ。すまんかったな、テニス部でもないお前さんにこんな事させて」

「いえいえ、私が勝手にしたまでですから」

詫びを告げれば、彼女は何でもないと言うふうに軽く首を横に振った。それを見れば、何故か俺自身も気付かぬ間に言葉が口から零れていた。

「…ええ子じゃの」

「え？」

「…お前さんはほんまにええ子じゃなって言ったんじゃ。

俺自身もともかく、身の回りの連中らでも、お前さんみたいにこんな放課後まで残ってひたすらボールを集める様なお人好しは今まで見たことがない」

…そう淡々と呟いて、はっと俺は一体何を言っているんだと少し恥ずかしくなる。

ただ、普通の人なら恥ずかしがる様な今の言葉も、彼女相手にはただ褒められたとしか受け取られなかった様で、「有難う御座います」と微笑まれる始末。

「…あー、調子狂うのぅ」

そう髪を掻き毟れば、隣にいた彼女はぎょっと目を見開いてこちらを見た。

「え、体調悪いんですか？大丈夫ですか？」

「…そういう事じゃないナリ」

俺は溜息を吐きながら、部室の部屋の鍵穴に鍵を差し込み、反時計回りに鍵を捻り、扉を施錠した。

…ほんと、出会ったばかりなのにこいつには調子が狂わされる。ペテン師として面目ない故に肩書きが聞いて呆れそうだ。

そんな事を考えつつ、俺は隣にいる一回り二回り小さい彼女と肩を並べて、また歩き出したのであった。