【仁王雅治】恋するペテン師は苦難中【テニスの王子様】 (ページ1)

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「…私の事、本気じゃなかったんだ。サイテー！」

そう言い終わるや否や、ぱちんという音と共に、頬に軽い痛みが走った。

こんなビンタ、うちの副部長のビンタに比べればちったぁ痛くないんやがの、と、俺はビンタされたにも関わらず、すまし顔で目の前に立つ同級生の女子を見た。

「…すまんな、俺は元からこういう奴じゃ。それを知った上であんなにもしつこく俺に迫ってきたのはおまんじゃろ」

そう告げれば、彼女はぷるぷると震え、次第に目に涙を溜め始めた。

普通の奴ならここら辺りで痺れを切らし慰めるなり何なりするだろう。…ところがどっこい、俺はそんな事で女を慰める様な真似をするそこら辺の純粋な男ではない。

「…泣いてどうするんじゃ」

俺はハンカチさえも、慰めの言葉さえも差し出さずに飄々と何も変わらぬ顔で彼女を見続ける。

「うるさい！もう二度と私に顔見せないでっ」

彼女はそう言うが早く、目元を乱暴に袖で拭うと廊下を走り去ってしまった。

「…やけに騒がしかったのぅ」

俺は、その彼女の背中を最後まで見届ける事もなく、組んだ両手を後頭部に置いて踵を返した。

＿…私の事、本気じゃなかったんだ。サイテー！

目的もなく歩いていれば、ふと、先程の"元"彼女の言葉を思い出す。

元はと言えば、面識もなかった彼女に何度もしつこく付き纏われ、仕方なくなけなしの善意で付き合ってやっただけだ。

…俺自体彼女に何の好意も持っていなかった、というのは本当だが、あんなにしつこく迫られては、好意を持っていなかったとしても事を沈める手として付き合う、という選択肢を取った俺が賢明ではないのか？

そんな事を共感してもらおうと誰かに言ったとしても、親友のアイツなら、「レディとは真剣に向き合わないと」とかなんとか抜かすんだろうな。

「…はぁあ、つまらんのぅ」

今迄の彼女も全部そう。
勝手に付き纏ってくるだけ付き纏い、「とりあえず貴方の気持ちはどうでもいいから、形だけのお付き合いだけでも」というスタンスでこちらに交際を求めてくる癖に、いざ付き合ってみれば結局こうなるんだ。

…何故、お前らは気持ちを俺に押し付ける？
面識もない女達と、付き合ってやっている俺の優しさで満足して欲しい。

相変わらずそんな屑思考で放課後の暇な時間を終えた俺は…その時、変わったものを見る羽目になる。

その出来事がその後、俺の運命を変える重大な人生のターニングイベントになるとは…神さえも知っていなかった事であろう。