身内贔屓 (ページ10)

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私は休日は遅くまで寝ているのがすき。いくらでも寝ていい時間があるならずっと寝ている。

だから何も予定がない週末、私が昼前まで寝ているのは当然のことで、それは兄貴も分かっているから特に口出しするわけでもなく、なんなら私を起こさないようにと気づかってか昼前までは外出するのにもなるべく音を立てないように出ていくし、とんでもないくらい重要なことがない限り私を起こすことはない。

兄貴だけじゃなくて私の周りの人たちはみんなそれを知っていて、だから私に何か用があるときは午後に電話をしたりしてくれる。

『♪〜♪〜』

なのに珍しく電話がかかってきた。
寝ていた私はコール音で目を覚まし、とっさにスマホを取る。
え、だれ？

「‥‥え、兄貴」

びっくりした。あの人から電話がかかってくるなんて滅多にない。通話ボタンを押すと、明らかに焦った声で兄貴が話し始めた。

『あ、もしもし？ごめん、起こしてもうた。』

「それはいいけど、どうしたん？」

『忘れ物したかもしれんくて。A悪いんやけどリビング行ってくれへん？』

「え？なに？忘れ物？リビング？」

兄貴と電話をつなぎながら、言われた通り自分の部屋からリビングに向かう。

「もしもし？行ったで」

『ソファーの上か、どっかに黒い鞄置いてへん？』

「あー、あるよ。黒いやつ。」

目線をソファーにやると大きな黒いトートバッグのようなものが置いてある。近づいて鞄を触りながら兄貴に返答すると、兄貴の焦ったような声が少しだけ落ち着きを取り戻し、兄貴は安堵するかのようにため息をついた。

『あのな？ほんとに悪いんやけど、その鞄劇場まで届けてくれへん？今日使う大切なものがその中入っとんのに、忘れてもうて、ほんまごめん』

「え、まじかよ兄貴」

寝起きのぼんやりした頭が一気にはっきりとする。うーわ、めんどくさ。でも兄貴が困ってるし、届けないわけにはいかないし。持ってくよ、と返事をしめんどくさいけど行くか、と電話を切ろうとしたところで、向こうの電話口がなにやら騒がしくなる。

ぎゃーぎゃー兄貴と誰かの言い合うような声が聞こえたあと、急に音がクリアになる。

『だから！おいちょ、森田お前スピーカーにすんな、おい『A！！！！』』

兄貴の声をぶった切るように誰かの声が重なる。
誰か、っていうかすごく聞き馴染みのある声。

『Aほんまごめん、こいつのせいで。悪いけどほんまできるだけ早く持ってきてほしい』