【MHA】朱に染まる (ページ10)

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No.7 『過去2=終わり:轟焦凍』夢主視点ページ10

「Aと俺はそんな関係じゃねぇ、そうだろう？」

「ッ……そう、だね。ショート君、今までありがとう」

　震えそうになるのを、すぐに泣き出しそうになるのを堪えて、必死に絞り出したあたしの声は、言葉は彼に何かを与えられたのだろうか？

　しかし、そんなあたしの必死の言葉は彼に届くことはなかった。

　何度思い出しても変わらない苦い思い出。

　そう、はじめからあたしと彼、轟焦凍君の間には何もなかった。

　恋人でもない、友人でもない、彼にとっての『知人』程度に過ぎなかったのだと思う。
　彼にとってのあたし……『測野A』という存在は。

　小、中と同じ学校の彼にあたしはいつしか惹き付けられていた。
　いつの間にかそれは、『恋愛感情』というものへと変化していた。
　あたし自身がそれを完璧に理解し、自覚するより前に。
　
　どうしてあたしは彼を好きになったのか？

　今でも時々考える。でも、答えは出ない。

　お互い愛する親を苦しめ、憎む親に苦しめられていたから？

　でも、そう思っているのはあたしだけで、彼はそうは思っていなかったと思う。

　それでもあたしは彼の近くにいられるならとあることを持ちかけてみた。

『あたしといろんなこと試してみない？』

って。彼があたしに対して優しかった記憶はない。

　それでもあたしは毎日、羽が生えて空を飛べるほではないかというくらい馬鹿みたいに幸せな気分で。

　あたしは自分の気持ちが伝わったのだと、愚かにも信じ込んでいた。

　彼をはじめて名字じゃなくて名前で呼んだ。
　彼とはじめて手を繋いだ。
　彼とはじめてキスをした。
　彼とはじめてデートした。

　そしてはじめて体の関係を持った。

　気がつけば、地味でさえなかったあたしの特別な『はじめて』は全て彼で埋まっていた。
　
　でも、きっと彼はそんなこと知りもしない、覚えてすらいないだろう。

　そんな関係に彼となって、かなりたった高校３年のとき、彼は氷の心を溶かしはじめた。

　言葉の端々に優しさと思いやりが滲んでいた。

　チャンスだと思った。利用しあうような関係ではなく、本当の『恋人』になれると思った。

　でも、それはあまりにも甘いあたしの空想に過ぎなかった。

　彼の返事は『NO』だった。

　彼は八百万さんと付き合いはじめたから、とあたしに告げた。

　そう直接彼の口から聞いたにも関わらず、あたしはその事実を信じたくなくて荼毘とはじめて出会ったあの日、デートしながら帰るという彼らを尾行するためにあたしは急いでいた。