No.9 『過去3=慰め:荼毘』 ページ12
「おい、どうした？」
一人、公園のベンチで泣いている女子高校生、つまりあたしに声を掛けてくるような男がいた。
……物好きな奴だな。
と、思ったのを覚えている。
でもまあ、少ししてから落ち着いて考えてみれば、わかることだった。
多分、荼毘はあたしの監視についていたのだろう。
「……誰？…ですか？すみ…ま……せん。…よく…見え……なくて」
涙で歪んだあたしの視界には、周囲が暗いのと相まって、男、荼毘の姿はぼんやりとしか見えていなかった。
「……覚えてねえのか」
「申し訳……ない…です」
嗚咽を堪え、必死に言葉を紡いでいく。
少しでも気を抜くと自分の中のドス黒いモノが表に出てきてしまいそうだった。
誰にも、彼……轟君にすら見せたことのない得体の知れないモノが。
しかし、そんなことがわかるはずのない荼毘は、あたしに向けて話掛けてくる。
「俺は、ヴィラン連合の荼毘。……そう言えばわかるか？」
それを聞いて、あたしの脳裏にツギハギのある肌をした男、荼毘の姿がぼんやりとだけど浮かんだ。
「ああ。……あたしの『定期報告』の相手でしたか」
「そうだ。それでお前はいつまでそうしてるつもりなんだ？」
外灯のない公園は暗い。ぼんやりと近くのコンビニだけが光を放ち、闇の中浮かびあがっている。
「もう暗い。ガキはお家に帰るお時間だ」
「ガキじゃ、ない。それに……」
それに、家に帰ったところで、あたしにはやることはないし、慰めてくれるような相手もいない。
「またチンピラに絡まれるぞ」
「別に、もう……どうなってもいい」
本心だった。あたしに何の価値があると言うのだろう。真っ当に生きていくことすら出来ていないのに。
また、止まったはずの涙が湧いてきてしまう。
「……しょうがねえな。話せよ、今まであったこと全部」
「なに……それ？」
あのときのあたしは素直に人の手をとるということを知らなかった。
でも、荼毘はそんなあたしの話を聞いてくれた。
「吐けば楽になるっていうからな。それともお前は俺に強制的に家まで送り届けられたいか？」
「……。」
あたしは一瞬荼毘の目を見た。
その目は確かにあたしへと向けられていた。
あたしは覚悟を決めて……否、救いを求めて今日あったことを、今までの全てを、荼毘に向けて吐き出した。
嗚呼、彼はやはり、優しい。
あたしの話を聞くという名目で、あたしに危険がないか、そんなことが起きないようについていてくれたのだから。
No.10『両天秤』夢主視点→←No.8 『過去2=終わり:轟焦凍』 夢主視点
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作者名：パンプキン | 作者ホームページ：http://uranai.
作成日時：2018年1月8日 17時
