No.19『本音』 ページ22
「おい、A。お前、もう飲むのいい加減にしろ」
死柄木は『手』の裏でAやトガには見えないものの、顔を歪めていた。
その原因は主にAの延々と続く愚痴である。
ずいぶんいい酒を持ってきていたからまあいいか、付き合ってやろうと思ったのが間違いだった。
と、今更ながら死柄木は思う。
「いいじゃん、まだまだ夜は長いんだからさあー」
……どう考えても死柄木の絡まれ損だった。
「ねートガちゃん」
とAは言い、
「そうですよー、弔くん」
と、トガは無責任にそう返す。
今、この場にいつもならストッパーとして役に立つ黒霧はいない。
Aに酒を勧められても断り黒霧は、この場から早々に離れていた。
ここに来るまでの間、既にほろ酔いだったAの愚痴をもう充分すぎるほど聞いていたからである。
(ちくしょう、アイツ逃げやがった)
しかし、Aとトガは死柄木をそう簡単に解放してくれる様子はない。
顔は赤いし、言葉は怪しい。
もう、その姿は完全なる酔っぱらいであるAは言った通りまだまだ話す気のようだ。
「でね、あたしの過去の彼氏の話なんだけどさあー」
「えっAちゃん、荼毘以前にも彼氏いたんですか！？意外な事実に驚きです」
酒が入っているからか、普段でも充分過ぎるほど、死柄木にとってはうるさいトガは今日は更にうるさい。
「意外って、なにそれ〜。あとあたし別に荼毘と付き合ってないよ」
「え、そうなんですか？てっきりそういう関係なのかと……」
「ないない。今みたいにあたしの愚痴に付き合ってくれてるだけだよ。荼毘は優しいからさあ」
Aの言葉にそうだろうか、とトガは内心首をかしげる。
Aに対しての荼毘の態度は、連合の他の相手に対してのものともまた違っている。
そう、例えば、ふとした瞬間に荼毘はAを見つめていたりする。
そのときの荼毘の瞳には、疑うような色はなく、ほんの少しだが、愛しげに目を細め、眩しいものを見るかのようにAを見ているのだ。
そして、A自身も荼毘に対して同じような目を向けている。
……しかし、二人とも自分たちの関係をけして明言しようとはしない。
そして、今ここで相手が酔っぱらいだからとそのことを問い詰めるのも野暮というものだ。
なので、トガは黙ってAの愚痴を続けて聞くことに徹する。
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作者名：パンプキン | 作者ホームページ：http://uranai.
作成日時：2018年1月8日 17時
