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片手で食べられ、メイクを崩さない利点を持つそれは

簡単に熱量となり、奇をてらわず、誰もをホッとさせる、しかも好物。

「…飯も、食ってよ」

「(笑)」

けれど

程よく『彼』から自分を取り戻す気の抜き方を得られたのかもしれない…

「んじゃ」

手を伸ばしそうになるのを耐えた。

「いってら〜」
「おつかれ」
「…智くん」

「ん?」

ドアを出かけた、いつもと違って少し伸びた背中が振り返った。

「?」

思わず呼び止めたものの、なんと声をかけて良いかわからない。

「……また、ね」

「^^」

心の叫びをマキシマムマイルドに押し殺した言葉に

大野は綺麗に微笑んだ。

閉まったドアを見つめたまま立ち尽くす櫻井の後ろで、慌ただしく今が動いていた。

まもなくスポーツの祭典の仕事が始まる。

今度は自分に時間の足りない日々がやってくるのに…


「しまった、忘れ物★櫻井くんごめん!先に車乗ってて!」

「マネ、ペナ1〜」

人気のなくなった駐車場に自分の足音だけが響いている。



「しょうくん」

不意に聞こえた、10分も前に行ってしまったはずの声に、勢いよく振り返る。

仕事上の、メンバーや気心の知れた相手への、そのどれとも違う

こんな風に笑う彼は、きっと自分しか知らない、愛しい笑顔。

なのに、それを懐かしいと感じるほど

『メンバー』としてでしか、会えていなかった…

「さとしくん」

「うん」

素早く近づいてきた彼が、冷たいコーヒーを手に押し付けた。

缶の影でほんの一瞬握られた指先。

「じゃ、行くわ」

「……ぁ、…」

逢いたいよ、恋人の大野智と櫻井翔として

逢いたいよ…

踵を返して走っていく彼の向こうで、マネージャーが焦って手招きしている。

「…っ」

大きな責任を抱えて忙しい彼の、今の精一杯。

左手の先からジンジン痺れてくる…

「お待たせ!」

「…悪い、ちょっと急ぎで帰りたい」

「なんか用事できた?」

「…うん。とっても大切な用がね」

思うだけじゃなく、その時出来る限りの努力を。


彼を迎えに行こう。

疲れた彼を感じて、受け止めて

それでもし彼が癒されてくれれば。

たとえ5分でも、それは自分にとってもまたとない時間。

どんなブランクをもあっという間に埋めてしまえる

愛おしい時間。


「…ところでさ、

さっきのペナ1取り消す代わりに、調べて欲しいんだけど」


待つだけじゃなく、我慢するだけじゃなく。


櫻井にいつもの力が戻ってきた。


【fin】

パワースポット 1 6/1→←3



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作者名:tororo | 作成日時:2014年6月1日 1時

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