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「丸三か月を過ぎた、か…」
時々難しい顔つきでじっと考え込むくらいで、
仮に憑依していて問題のある役柄ではないから
心配はない。
けれど。
今は初めての恋に奮闘する初心な役だから、櫻井はすっかり遠ざけられている。
自分と自分の生活の中から、恋人という存在を完全に排除したのだ。
本人だって計算して役に入っていくわけじゃないから
形作っていく間に会うのを断られるようになった。
彼の気質も理由も、誰より理解しているつもりの自分だから。
それでも
「…智く〜ん、そろそろ不足通り越して干からびそうになってきましたけど〜…」
自分が仕事に追われている間は、同じくらいほったらかしにすることもあるくせに
身勝手な話だ、とはわかっている。
それでも
「顔文字じゃ、足りませんよ〜」
画面に向かってチュッと口づける自分が、少々イタイ。
定期的にレギュラーの仕事で顔を合わせることが、余計にその渇望感を際立たせる。
そんな櫻井を気遣ってかどうか、
最近はこうして自分の写真を送ってきてくれるのだ。
できれば
「…変顔じゃないのもお願いしますよぉ〜…」
けれどそれはそれで、辛いかもしれない……
「…寝るか」
明日はそのレギュラーの収録がある日だ。
・
基本的にレギュラー番組は数本をまとめて撮るため、一日拘束される。
万が一のトラブルに対応できないのは困るから、
柔軟に調整の出来る雑誌取材や、個人仕事でも自分の都合で動けるもののみ。
連ドラを除けば。
「あれ?翔ちゃん、お疲れ?」
「なんかいつもの覇気がないって感じ」
メンバーの言葉に苦笑いしていると
「ごめん、遅くなった!」
松本が息を切らせて駆けこんで来た時、大野はまだ到着していなかった。
「え、リーダー、まだなの?」
自分が最後じゃないとわかってホッとした松本に、すぐにヘアメイクさんが駆け寄る。
「撮影、順調?」
「うちは雨男、いないから(笑)」
「なるほど(爆)」
他現場の撮影状況を聞きながら、彼の毎日に想いを馳せていると
ディレクターが口を開いた。
「やはり大野さんは、この回は外しときましょうか。」
「そうしてもらいましょう、いいよね?」
マネージャーの返事と同意を求める言葉に、いきさつを聞いていない松本が
「え?なに?どういうこと?」
「大野くん、夜中3時まで夜の道路のシーン、そのまま朝一からさっきまで」
「あぁ、渋滞回避」
「で、本人は現在絶賛渋滞巻き込まれ中(苦笑)」
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作者名:tororo | 作成日時:2014年6月1日 1時