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彼は部屋の中に戻ると、トレーを運んできた。
トレーの上には、缶ビールとグラスが一つ、そしてつまみなのだろう、綺麗に盛り付けられているらしい皿が一つ。
座り込んだ彼が、楽しそうにビールのタブを引く。
昼間であることを考慮してだろうか、小さな缶だ。
グラスを手に取ると、静かにビールを注ぎ始めた。
とくとくとくとく…
ここまで音が聞こえるような気がするほど、彼の嬉しそうな顔、丁寧に注ぐ手つき…
「…うまそ…」
その小さな缶の中身がちょうど一本分入ったそのグラスを手にしたまま、彼は缶を丁寧にテーブルに置いた。
そして目の前の皿に向かって、「いただきます」というように軽く掲げて見せると。
「…ぁ」
ごく…ごく…
櫻井は思わず一緒に飲んでいるような気になって、唇を半開きに、彼の動きに合わせて徐々に顎が上がっていった。
ぷはっ
「!」
今度は確かに、息をついて思わず出てしまう声が、ここまで聞こえた。
……なんだ、今の……
…可愛い…
「ふはっ…^^」
幸せそうにふぅっと息を吐いて、そのまま椅子の背にもたれて空を見上げた。
眼の高さまでグラスを掲げると、陽射しにかざして角度を変えて見ている。
淡い琥珀色の液体を通って降り注ぐ光が、色を変えて彼の上をチラチラと踊っている。
「…綺麗……」
そのまま自分の身体ごと向きを変えて揺らり、揺らりと、…
「?」
「!」
柵と草木越しに櫻井と目が合った。
バクン…
心臓が音を立てたのは、ずっと見ていたという後ろめたさ…だけではないような気がする。
そんな櫻井の気持ちなど知る由もないはずが
にっこり。
彼が櫻井に笑いかけて、もう一度今度はこちらに向かってグラスを掲げてきた。
あぁ、ずっと見ていた…とは気付かれていない。
櫻井は少しほっとして、やはりニッコリして会釈を返すと、自分のビニール袋を持ち上げてみせた。
向こうの彼がそれを見て、ぱぁっと破顔した。
自分だけが感じている気まずさをやり過ごせた安心と、その笑顔を見て感じたこと。
「良かったら一緒にやりませんかぁ?」
まさかの向こうから声がかかった。
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作者名:tororo | 作成日時:2014年6月1日 1時