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−樹−
俺には想像も出来ないほど、高地の人生は過酷であった。
「時計屋の店主にマンションの事教えてもらって、それで入居したんだよ」
震えも大分治まった彼は体を丸めて目を閉じる。
こういう時何と声をかけるべきか。
迷い悩んだ結果、静かに抱き締めるだけに留まった。
暫くそうしていると腕の中で彼がモゾモゾと動き顔を覗かせる。
「ありがとう、今度こそ本当に大丈夫だよ」
その言葉に偽りは無くホッと胸を撫で下ろす。
彼の傷が癒えることは無いだろう。
ならばせめて一秒でも多く笑顔を浮かべられるように。
「もしもし、北斗?」
『あ、樹。何処にいるの?』
「公園。高地が人に酔っちゃったみたいでさ」
『え!高地大丈夫!?』
『ちょっと慎太郎煩い…すぐ行くから』
なぁ高地。
お前はもう一人じゃないよ。
親友も、ボディーガードも、ちょっと変わり者な隣人だって居る。
だからたまには弱みを見せて。
甘えてきたっていいんだよ。
「あれ、高地変化してんじゃん」
「俺気づけなくてごめんね!」
「お前大勢人がいる中歩いた事無かったもんな」
「早く帰ってゆっくり休もう?」
慎太郎が狢を抱っこしジェシーが水を差し出す。
心配そうに顔を覗き込むきょもの横でさり気なく高地の背中をポンポンと撫でる北斗。
ほら、こんなに愛されている。
隠していては気づくことも出来ないよ。
だからさ、化かすのも程々にね。
_______
「なぁ聞いたか、山姥の話」
「昔猟師を襲ったっていうやつだろ?」
「あぁ。そいつがよ、退治されたんだって」
「ほう、そりゃ安心して暮らせるってもんだ」
「ありがてぇなぁ」
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作者名:やた | 作成日時:2022年2月3日 1時