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北斗が里を出て俺が車に乗る様になった頃。
いつも通り畑の仕事をしていた時だ。

「優吾、倉庫から肥料を持ってきておくれ」

「え?」

俺は驚き目を見開いた。
だって倉庫は危険だからと今まで入らせてもらえなかったから。

「お前も大人になったからね」

その一言が俺の心を舞い上がらせる。
漸く一人前になったと認められた様な気がして、倉庫の鍵を受け取り足早に向かった。

倉庫と言うだけのことはあって物が多い。
中には斧や鎌などもあって確かに子供には危ない場所だ。
ランタンの心許無い明かりを頼りに肥料を探す。

「あった!」

端へ追いやられていた袋を手に取り出口へ向かおうとした。
しかし、バタンと音を立て倒れた物に目をやった瞬間、体が硬直して息が詰まった。

茶色く長い銃が二本。

床に肥料が散乱する。
何故これが此処に有るのか。
俺が嫌っている事くらい知っているはずなのに。
婆ちゃんは使ったことあるのかな。

「肥料は見つかったかい」

悪い方へ思考巡らせてしまっていた俺は震える体を抑えることも出来ないままゆっくりと振り返った。
そこには影で表情が窺えない彼女が。

「婆ちゃん…な、何で…銃…あるの?」

口が上手く動かない。
暫く触れてこなかったトラウマを無理矢理掘り返されたみたいだ。

「昔使っていたんだよ」

「使ってた…?」

「あぁそうさ」

彼女が一歩倉庫に足を踏み入れる。
それに反応し俺も一歩後退った。

「私ゃ狸鍋が好きでねぇ」

ゾワリと悪寒が走り背中に嫌な汗が伝う。
彼女が前へ進む度に俺は後退し、それを何度か繰り返した所で背に何かが当たった。
慌てて振り返ると一枚の着物が綺麗に干されていて。

「かあ…さん…?」

目から涙が溢れて止まらない。
あの日の記憶は鮮明に覚えている。
この着物は母親が最後に着ていたものだ。

「あ…あぁ…あああぁぁ!」

俺は弾かれるように倉庫を飛び出した。
彼女と過ごした二十年は一体何だったのだろう。
家族だと思っていたのは自分だけだったのだろうか。
何もかも分からないまま無我夢中で山を走った。
走って走って、辿り着いた場所は北斗の家。
誰も住んでいない廃墟。

孤独だ。
頼れる人はもう誰も。

『東へ向かいなさい』

項垂れていた顔を上げる。
何が本当で何が嘘なのか俺には分からない。
でも体は勝手に動いていた。

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作者名:やた | 作成日時:2022年2月3日 1時

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