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−北斗−
驚いた。
最初は苗字が同じなだけの別人かと思ったんだ。
俺の記憶にある彼はもっと髪が長かったし、こんな都会で暮らしてはいない。
けれど、声が、仕草が、笑顔が、全てが高地だと訴えかけていた。
「久しぶり!びっくりしたよ、まさかこんな所で会うなんて」
「うん、俺も驚いたよ…お婆さんは元気?」
足元に転がるガラスの破片を片付けながら懐かしい空気にホッと息を吐く。
他の皆は状況が掴めずに置いてきぼりをくらっていた。
「ばあちゃんね、つい先月亡くなったんだ」
「え…ご、ごめん!俺知らなくて…」
「いいのいいの、もう歳だったし!それで俺引越してきたんだよ」
高地は早くに両親を亡くし、片田舎に住む祖母の元で育てられた。
俺も昔は近所に住んでいてよく一緒に遊んでいたのだけれど、家庭の都合で引っ越すこととなり、以来高地とは疎遠となっていた。
いつか地元へ帰るつもりでいたけれど、まさか彼の方が先に上京するなんて。
床を濡らしていた紅茶を雑巾で拭いていると、頃合を見計らって慎太郎、樹、ジェシーが近づいてきた。
「お前ら知り合い?」
樹が面白いものを見るような目で俺達を見る。
ジェシーは何故だか眉間に皺を寄せていた。
「幼馴染なの、ね!」
「うん、幼馴染」
高地の明るい声に釣られて慎太郎まで嬉しそうに笑っていて、きっと尻尾が生えていたら千切れんばかりに振っていただろう。
「北斗は今何してるの?」
「俺は此処でSSの仕事してる」
「え!?」
投げ掛けられた質問にただ答えただけなのに、高地は面白いくらいに声を上げた。
樹も慎太郎もその反応にケラケラと笑っている。
「そんなに驚く?」
「だってお前人見知りじゃん!友達俺しか居なかった奴が他人を守ったりできるの?」
「失礼だな!」
「あははっこーち最高!」
「樹は黙ってて!」
気づけば先程まで恐い顔をしていたジェシーにまで笑われていて顔に熱が集まってきた。
今直ぐにでもこの場から消えてしまいたいというのに、どうして彼はこうタイミング悪く現れるのだろうか。
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作者名:やた | 作成日時:2022年2月3日 1時