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「忘れ物ない？」
『ないよ。ちゃんとリップも持ったし』
「じゃ、行くか」
大学生になった私たちは、4人でご飯を食べるために家を出て居酒屋に向かっている。
高校の頃を思い出しながら駅に向かって電車に乗ると、海斗が私の顔を見つめてきた。
『なに？』
ある程度混んでいる電車の中で、小声で話すと海斗は近付いてきた。
「ひとつお願いがあるんだけど」
『うん』
「ちゃかに惚れないでね」
気難しそうに話す海斗は、眉間に皺を寄せている。
『え？』
聞き返してもそれ以上何も言わない。
電車が前に合コンに参加してしまった時の駅に着いて、そのまま二人で降りた。
つまり、ここは宮近くんの家の最寄り駅。
駅前は賑わっていて、居酒屋が沢山あるこの辺りは大学がいくつか近くにある。
宮近くんは、確かその内のどこかの大学に通っている。
『海斗』
「ん？」
黙ったままの海斗に、目的地まで歩きながら声をかけた。
『私が今好きなのは、海斗だよ』
「……うん」
『だから、宮近くんに惚れたりしない』
「あいつがかっこよくなってても？」
こんなに不安そうにしている海斗、久しぶりに見た気がする。
『ふふっ、それなら大丈夫』
「なんで？」
なんだか、子犬のように見えてきて可愛くて。
不思議と意地悪をしたくなった。
『だって宮近くん、元々すっごくかっこいいから』
私の言葉で、目付きが鋭くなった。
「だから、それが不安なんだって」
さっきまで子犬のようだったのに、今は怒った猫みたい。
『嘘嘘、怒らないで。私が好きなのは海斗だって、海斗自身わかってるでしょ？』
「わかってるよ、わかってるけど……」
『これ以上不安になってたりしたら私、信用されてないのかなって悲しくなるんだけど』
「ごめん」
意地悪、しすぎちゃったかな。
「ちゃかが大丈夫でも、海人が言いよったり……」
海斗は繊細だから、一度気になるとずっとこう。
『ねぇ、海斗』
「なに？」
『大丈夫だから』
立ち止まって海斗の手を握る。
目を合わせると、少し目が潤んでいて申し訳ない気持ちになる。
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作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
