いつか恋が実るなら。#2 (ページ8)

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「あのね、A」

『なに？』

私の頬に手を添えて、親指で涙を拭う。

真剣に話しているのに、海斗はどうしてか笑顔で私を見つめる。

「それ失恋って言わない」

『え？』

「フラれてないでしょ」

『どういうこと？』

だって、あれはきっと私じゃない人のことを話していて……

「自立してる人が好きとか、ひたむきに取り組む人が好きってだけじゃん。好みの話だし」

『そうなの？』

「うん。だから、まだ失恋じゃない」

『……そっか』

好みの話、確かにそうかもしれない。

誰が好きだとかは言われていなくて、私は告白すらしていない。

フラれるっていう基準が分からなかったけど、好みが私とかけ離れていたからって失恋にはならないんだ。

「安心した？」

『なんていうか、その……恋って、難しいんだって思った』

「恋愛初心者だもんね」

『うん』

話しているうちにマンションに着いて、2人でエレベーターに乗り込んだ。

「あ〜……」

『なに？』

「いや、遂にAも恋したかって思っただけ」

『お父さんみたいなこと言わないでよ』

「ごめんごめん」

階に到着して、海斗は開くボタンを押してくれた。

私に続いてエレベーターから出てきた海斗は、また私の頬に手を添える。

“もう泣いてないね”そう言って、すぐに手を離した海斗はどこか寂しそう。

どうしてそんな顔をするのか、私にはわからない。

でも今の私には、恋について考えるだけでキャパオーバーで、海斗の気持ちを考えるなんて出来なかった。

「好みがそういう人なら、Aはそんなちゃかが好きになるような子になれるように頑張ったらいいんだよ」

『でも何をしたらいいかわからない』

「んー、例えば、今から何か初めてみるとか」

『何か？』

海斗ならギター、宮近くんならサッカー、そうやってひたむきに取り組めるもの……

私には、何も思いつかない。