56 ページ6
.
「ちょっと ちゃかと話してからいく」
立ち去りたい私とは裏腹に、海斗はどこまでも空気が読めなくてイライラする。
海斗が悪いわけじゃないのに、本当に今の私は最低だ。
『ねぇ早く！ばかいと！！！』
幼い頃から、海斗に怒る時はよく“ばかいと”なんて言っていた。
そんな私を見て、海斗は眉間に皺を寄せた。
「A、口悪い。いいからちょっとそこで待ってて。嫌なら俺のこと置いて先帰りな」
『……』
今は海斗と一緒にいないと嫌。
恋も、失恋も、全部したことないから不安なのに。
こんな時に海斗と居られないなんて、私の心の支えがいなくなったも同然。
私、なんて我儘なんだろう。
黙り込んだ私を見た海斗は、そのまま宮近くんに近付いて何か話し始めた。
流石に話している内容は聞こえなくて、ただ見つめることしか出来ない。
ふたりはなんだかチラチラと私を見ながら話していて、かなり嫌な感じ。
辛くて、そんな姿も見たくなくてホームに足を進めた。
……海斗のバカ。
今こそ海斗と一瞬たりとも離れたくない時なのに。
幼馴染、腐れ縁の出番じゃないの？
そんなことを考えていたら、また涙が出てきた。
失恋して、ショックで幼馴染に助けを求めたのに、その幼馴染は私の好きな人と話していて、私は結局1人。
ホームで電車を待っていると、目の前を特急列車が通り過ぎる。
出ていた涙が、電車が通った後の風に吹かれた。
「また泣いてんの？」
宮近くんと話し終わったのか、海斗はホームに来た。
『仕方ないじゃん。涙が勝手に出てくるんだから』
そのまま私に近づくと、手に持っているものを差し出してきた。
「はい、これちゃかから」
『え？』
手の上に重ねられていたのは、タオルとジャージ。
更に海斗の腕にかかっていたのは、さっきまで宮近くんがさしてくれていたビニール傘だった。
「優しいよな、ちゃかって。同い年とは思えないほど気遣いできるし」
『……』
受け取ろうとしない私に海斗はしびれを切らしたのか、タオルを頭に乗せてくる。
そのまま頭に手を置いて、口を開いた。
「だから、好きになったんだろ」
『……え？』
「Aが好きなのって、ちゃかでしょ？」
なんでも知ってるぞ、そう言わんとばかりに話す。
どうして、知っててさっき話しに行ったの？
『ち、違う！』
「バレバレだから。隠しても無駄」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 256人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
