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「今週の土曜日に、先輩たちがおそらく最後になる試合があるから、試しに応援に来てみてよ。そこでもう一度考えてみてほしい」
『私なんか行っても迷惑になるよ』
「ううん。俺、Aちゃんが見に来てくれたら頑張れるし」
また、少女漫画に出てくる爽やかな好青年のような笑顔。
『でも きっと私、気持ち変わらないと思う』
「それでもいいから、来てよ」
ネガティブな私に、げんちゃんはめげずに声をかけてくれる。
『……少し考えさせてほしいな』
「もちろん。チケットとかいらないから、来れたら来てよ。後でLINEで場所送るね。待ってるから」
私の頭を撫でてくるげんちゃんとは、小さい頃と立場が逆転していることに気がついた。
あの頃は、年下のげんちゃんが泣いてしまったら私や海斗が慰めたりしていたのに。
身長だって、私と海斗の方が大きかった。
今は、げんちゃんのことを見上げないと目が合わない。
『……げんちゃん、大きくなったね』
私が見上げてそう言うと、彼は私の頭にポンと手を置いた。
「Aちゃんは小さくなったね」
『うるさい』
「ん、怒ってんの?可愛い」
可愛い。
その言葉で思い出すのは“可愛いこと言うね”と笑う、宮近くんの姿。
思い出した瞬間に、あの時の恥ずかしくて熱を出した時みたいに顔が熱くなるのを感じた。
「あー、これか。ちゃかが言ってたの」
『へ?宮近くん?』
急に宮近くんの名前が出たから、ドキッとして声が裏返る。
「照れた時のAちゃんが、めちゃくちゃ可愛いって」
『なに、それ……』
げんちゃんに そんなこと話してたの?
照れた時って、この前一緒に帰った時のことかな。
宮近くんって、私がいない所で私の話してくれたりするんだ……
「あ、やべっ、鬼来た!」
ぼーっと考えながらげんちゃんを見ていたら、ドアが開いた音で急に焦りだす。
「ちょっとごめん」
そう言って、彼は私の腕を掴んで、もう片方の手は顎に添えられた。
顔が近づいて、今にも触れそうな距離。
何、この状況。
『げんちゃ、』
「静かに」
動いたら触れてしまいそうで怖くて、硬直する身体。
げんちゃんに見つめられたまま、鬼が近づいてくる足音を聞く。
私の視界には、げんちゃんしか入っていなくて、周りがどんな状況かなんて分からない。
理解できるような余裕もなかった。
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作者名:愛生 | 作成日時:2024年1月21日 2時