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「あ、ちょっとここ寄るね」
そう言って、宮近くんが迷わずに入っていったのは、駅前のコンビニだった。
『コンビニ？何か買うの？』
「この前の約束したでしょ」
『約束なんてした？』
「傘から出ようとしたら肉まん奢りって」
肉まん？
そういえば、私が宮近くんを好きだと自覚して逃げたあの日。
“次また傘から出ようとしたら、肉まん奢りね”
“だから、出ないように気をつけて”
なんて、言われていたかもしれない。
『……あ』
「あの時傘から出たから、Aの奢りね」
そう言われて、私は肉まんを1つ買うと、宮近くんは何故か隣のレジで種類が違う少し値段が高い肉まんを買った。
2つ食べるのかな？
部活終わりだから、お腹減ってるの？
『宮近くん、これ』
「ん、ありがとう」
肉まんを手渡すと、宮近くんはそのままもう片方の手で傘をさして駅まで歩く。
改札前で分かれるかと思いきや、傘を畳むと 駅構内のベンチに座った。
「ここ、座って」
言われるがまま、トントンと叩かれた宮近くんの隣に座る。
奢った肉まんを半分に割ると、宮近くんは私にに差し出してきた。
『え？』
「肉まん、食べ比べしない？」
『食べ比べ？』
食べ比べるのはおそらく、私が買った肉まんと、宮近くんがさっき買っていた少し値段が高い肉まん。
『それじゃ、私奢ったことにならないよ？』
「なってるよ。一緒に食べ比べね」
腑に落ちないけど、2人で温かい肉まんを食べるのは嬉しい。
こっちの方がお肉が美味しいだとか、そんな話をしながら食べる肉まんはどちらも美味しくて
……私、今凄く幸せ。
「美味しい？」
『うん』
「すごい幸せそうだね」
食いしん坊だと思われたかな、なんて恥ずかしくなったけど、隣で笑顔になっている宮近くんを見たらそんなのどうでも良くなった。
「よかった」
『なにが？』
「俺相手だと、あまりそういう無邪気な顔見せてくれないでしょ？」
『そんなこと……』
そんなこと、あるかも。
宮近くんの隣にいたら、緊張してあまり笑えていないのかもしれない。
「海人と松倉だけじゃなくて、俺のことも素直に頼ってくれていいから」
私、何か悩んでいると思われたのかな。
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作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
