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キャパオーバーで、歩いていた足が止まる。






『……可愛いって言わないで』


「恥ずかしい?」





立ち止まって俯いた私の目の前に立って、顔を覗き込んでくる。


目を合わせないように逸らすけど、ひとつの傘の下で濡れないようにするには、必然的に距離が近くなってしまう。


だから、ずっと目を逸らすのは難しい。


宮近くんは そんな私の頬に触れた。





「こっち見て」





無理、こんなの耐えられない。


今すぐ逃げたいくらい、ドキドキして苦しい。





『っ、やめて』


「恥ずかしがりすぎ」





どうしてそんなに余裕なの?


宮近くんには、この距離感が普通なの?


こんなこと、今までしてこなかったじゃん。


前まで、頭を撫でられるくらいだったのに。





「暗くても顔真っ赤なのわかるよ」





なのに、なんで急にこんな事になっているの?






『だって、宮近くんが……』


「俺が?」


『宮近くんが、狡いから』





こう話している間も、頬に触れたままの手。





「狡いのはAでしょ?」






頬を撫でるように動くその手を、離す気は無いみたい。







『私は何も狡くないもん』


「十分狡いことしてるよ。自覚がないだけで」


『そんなの、知らないし』





私は狡いことなんてしていない。


やっと手が離れると、宮近くんは私の隣に並んで歩き出した。


濡れるのは嫌だから、止めていた足を動かして宮近くんの隣を歩き続ける。





「Aに好きな人が出来たら、俺そいつに同情するわ」





隣で笑う宮近くんは、何を考えているのかよく分からない。





『同情って?』


「無自覚で男を振り回すの、得意っぽいから」


『どういうこと?』


「可愛いなって思わせるのが上手いってこと」


『え?』





それって、いい意味?それとも悪い意味?





「悪い男まで惹き付けないように気をつけなね」


『……』


「ムスッとした顔しても可愛いだけだよ」





立ち止まってまた私の頬に触れる。


今度はつねるように軽く頬を引っ張ったと思うと、笑ってすぐ手を離した。






『……やっぱり、狡いよ』






私が小さく呟くと、宮近くんは頭を撫でてきた後また歩き出した。

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作者名:愛生 | 作成日時:2024年1月21日 2時

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