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『中村』
「ん?」
ファストフード店からの帰り道。
隣を歩く中村に声をかけた。
『さっきはごめんね。感情的になりすぎた』
「海斗のこと?」
『うん。宮近くんの話、中村にしか出来なくて』
「クラは?あいつならなんでも喜んで聞きそうじゃん」
『まちゅに話したら、この前嫌そうな顔されちゃったから』
「へぇ」
つまらなさそうに返事をしてくる。
私の話をして、中村が何か得をするかっていうとそうではないし。
中村にとっては興味が無いつまらない時間を取らせてしまうことくらい、私だってわかってる。
『もし私がひとりで抱えきれなくなったら、話聞いてほしいなって。ダメかな?』
私が我儘を言うくらい頼れるのは、海斗か中村だけ。
だから、お願い。
「んー、悩み相談くらいならいいよ」
『応援してくれないのに、相談はいいの?』
「海斗のこと俺に聞かないでくれるならいい」
『わかった。ありがとう』
どうしてそんなに宮近くんのことを教えてくれないのかは分からない。
それでも、話を聞いてくれるだけで嬉しい。
中村に相談したら、色々と宮近くんに話してしまうんじゃないかって勝手に怖くなったりもしたけど、思えば中村はそんなに悪い人じゃない。
少し意地悪なだけで、根っから私が悲しむようなことは、今までしてきたことがない。
前に宮近くんが言っていた、中村の優しいところはきっとこういう不器用なところに隠れているんだ。
「Aは恋愛初心者だから、俺みたいな相談相手くらいいないとな?」
肩を組んできて、目を合わせてクシャッと笑う。
『うわ、思い上がってるの痛いよ』
「あー。俺といる時はこんなに口悪いって海斗にチクッちゃおうかな」
『やだ。絶対ダメ!』
「嘘だって、そんなムキになるなよ」
ケラケラと笑い続ける中村は、やっぱり宮近くんの言う通り優しい人だ。
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作者名:愛生 | 作成日時:2024年1月21日 2時