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「え、A?」
走った勢いのまま抱きつくと、海斗が手に持っていた傘がヒラッと宙に舞って地面に落ちた。
「ちょ、バカ!お前ずぶ濡れじゃん」
腰に左手が回って、右手は濡れた髪を梳かすように動く。
『海斗……ッ』
「帰ったんじゃなかったの?」
首を横に振ると、海斗は小さくため息をついた。
「とりあえず、傘ささないともっと濡れるから1回離れて」
もう濡れたっていい。
これ以上濡れたって、変わらないし。
海斗には申し訳ないけど、巻き添いだ。
抱きしめている力を強めると、海斗は堪忍したのか 私の頭をぽんぽんと撫でた。
「なんで泣いてんの」
『……海斗、どうしよう』
「ん?」
『私、私ね』
「ゆっくりでいいから、ちゃんと息して」
言われた通り、一度深呼吸をする。
『私、失恋したかもしれない』
「……は?」
そりゃあ驚くよね、私だって驚いているんだから。
『自分でもよく分からないの。分からなくて、全部分からないから、だから』
「わからなくてもいいから、一旦落ち着いて。ここじゃもっと濡れるから、先に家帰ろう?」
そう言って海斗は私の身体を離した。
そのまま力が抜けて、ふらふらとその場にしゃがみこむ。
『無理、もう歩けない』
「こんなとこしゃがんだら足まで濡れちゃうって」
海斗は傘を拾ったあと、しゃがんだ私にさしてくれた。
おかげで雨には当たらないけど、しゃがんでしまったせいでスカートの裾までびしょ濡れ。
『じゃあ海斗が駅まで運んで』
こんな我儘、普通は聞いてくれないのに
「……はぁ、わかったよ。おんぶでいい?」
『うん』
海斗だけは、許してくれるんだ。
「その代わり、Aは俺のカバン持って、傘さしてよ」
『わかった。ありがとう』
目の前にしゃがんで私をおんぶすると、傘を手渡してきた。
そのまま傘をさすと、海斗は駅に向かって足を進めた。
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作者名:愛生 | 作成日時:2024年1月21日 2時