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あれから、Aはなんだかボーッとしている日が増えた気がする。
ある日の放課後、軽音部に行くのにピックを机の中に忘れて取りに行った。
誰もいないと思っていた教室に居たのは、部活に入っていないAだった。
肩には少し大きいジャージがかけられている。
「なんで残ってんの？」
『あ、いや別に……』
「何も無いなら海人と帰れば良かったじゃん。また喧嘩したの？」
『ううん、そうじゃないんだけどね』
……絶対、何か隠してる。
嘘を付くのが苦手なAは、言葉を濁すことで話題を避けようとする。
「てか、何そのジャージ。今日体育なかったじゃん」
『えっと、これは……』
ほら、また濁してる。
「……また、ちゃか？」
『え？』
目を大きく開いた彼女の反応。
あー、やっぱりそうなんだ。
「Aのにしては大きい感じするから」
指摘すると、また言葉を濁して避けようとする。
ちゃかのジャージで間違いない。
俺に質問されて逃げたくなったのか、Aは帰ると言っていたけど、そもそも教室に居たのが本当に不思議で。
モヤモヤしたまま軽音部の部室に戻ってギターを弾いた。
帰り道、外は雨が降っていた。
ボーっとしながら傘をさして歩いていると、少し離れた場所から俺を呼ぶ声がした。
顔を上げたら、目の前にいたのはAだった。
走ってきた彼女は、そのまま俺に抱きついてくる。
傘をさしていなかったせいでびしょ濡れのAは、息遣いからしてどうやら泣いているようで心配。
どうして泣いているのか聞いたら、深呼吸をした後に一言。
『私、失恋したかもしれない』
失恋、その言葉をAから聞くことになるとは思わなかった。
泣き続ける彼女を帰るように促しても、フラフラと力なく雨が打ち付けている地面に座り込んでしまった。
『じゃあ海斗が駅まで運んで』
まるで執事にお願いするお嬢様のような彼女の事は放っておけない。
さっきまで抱きつかれていたせいで、服の前は冷たくて、後ろは今Aをおんぶしているせいでドンドン湿ってきている。
失恋なんてさ、Aは恋心に気付いてなかったんじゃないの？
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作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
