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「優しいな」
『昨日傘に入れてあげられなかったから、海斗こんなに酷い風邪ひいちゃったんだよね。ごめんね』
Aは何も悪くないのに謝る。
そんな優しいところが好きだと再認識する。
『海斗、悩んでることない?』
「悩んでること?」
『だってあの時、いつもと違う感じしたから』
Aの言う“あの時”は、きっと俺が駅で怒った時のこと。
嫉妬してました、なんて言ったら引かれるかもしれない。
ただの幼馴染なのに、とか返されたら耐えられない。
「……悩んでることなんてないよ。ありがとう」
疑う目で見てくると、Aは良いことを思いついたような顔をした。
『海斗、ハグしていい?』
「え?」
『お願い。ギューってさせて』
……可愛すぎ。
身体を少し起こしてハグしやすいようにすると、Aはベッドの上にきて覆い被さるように俺を抱きしめた。
『さっき、海斗がこのままいなくなっちゃったらどうしようって考えてたら、怖くて涙出ちゃった』
「大丈夫だよ。いなくならない」
Aの匂い、首元に触れて擽ったい髪。
耳元で話す声。
『絶対?』
「絶対」
力が入ってもっとキツく抱きしめてくる手。
俺の身体に頑張って回している腕。
『そういえばお粥作ったの。持ってくるね』
優しくて、なんの穢れも知らない純粋無垢な性格。
全部愛おしくて、離れたくない。
「……こうやってハグするの、小学生ぶりだからさ」
『うん』
「もう少しだけ、このままで居させて」
小さく“うん”と言ったAは、なんだか嬉しそうだった。
ちゃかのことが好きなのか、今なら聞ける気がして質問してみたら
“海斗知ってるでしょ?私が今まで恋したことないってこと。だからわかんないよ”
“やっぱり私にはまだ分からないや”
そう返ってきたことが嬉しくて、このままAが恋心に気付かなければいいと思った。
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作者名:愛生 | 作成日時:2024年1月21日 2時