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『……嫌だし、辛かった』
泣きそうになってしまって、海斗のお腹に擦り寄って顔を隠す。
「よく頑張りました」
頭を撫で続けてくれているおかげで、とても落ち着く。
『ありがとう、海斗』
「別に俺は何もしてないよ」
そう言って、泣きそうな私の顔を見ないようにしてくれているのは海斗の優しいところ。
涙が引くまでそのままでいてくれて、私が寝返りをうって仰向けになった状態で海斗を見ると、やっと目が合った。
私の顔を見てた海斗は、何も言わずに目元の涙をスウェットの裾で拭いてくれる。
「落ち着いた?」
『うん。そういえばね、見学に行って良かった事もあったんだよ』
げんちゃんと再会したこと、海斗は喜んでくれるかな?
本当の兄弟みたいに仲が良かった2人のことだから、喜ばないわけが無いよね。
「いい事って?」
『小学生の頃、よく遊んでた下の階のげんちゃんって覚えてる?』
「あぁ、俺らが小6の時に引っ越した」
『そう!そのげんちゃんがね、うちの高校にいたの』
「え、まじ?」
さっきの宮近くんの話題の時には合わなかった目は、まん丸に開いてキラキラしている。
『サッカー部で、1年生なのにエースなんだって』
「凄いな。俺も今度会いたい」
今も目が合っていて、やっぱりさっき目が合わなかったのは宮近くんの話題を出したからなんだと分かった。
それほど私の恋には興味がないっていうこと?
私にとって海斗は、唯一何も気にせずに恋の話をできる相手だけど、海斗はそんなこと聞きたくないんだ。
『じゃあ3人でお出かけしようって誘ってみる?』
「そうしよう!頼んだ!」
げんちゃんの話をしている時とは、大違い。
……これからは、海斗に恋の話はしない方がいいのかな。
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作者名:愛生 | 作成日時:2024年1月21日 2時