66 ページ16
.
「じゃあ、Aのことお願いします」
「はーい。行ってらっしゃい」
美希先輩が宮近くんを見送って、部員がフィールド内に集まったと思うと、準備体操を始めた。
「Aちゃん、何も気にせずにゆっくり見学していってね」
『ありがとうございます』
座って見ていいと言われて、ベンチに座ったのはいいものの、美希先輩はベンチの横に立ったままでソワソワする。
私、本当に座っていていいのかな?
準備体操を終えた部員は、ペアになってパスの練習を軽く始めた。
……宮近くんのサッカーしている姿、ちゃんと見たの初めてだ。
軽い練習をしているだけでもかっこいい。
いいなぁ、マネージャーになったらずっとこの姿見れるのかな?
でも、見ているだけがマネージャーじゃないよね。
今だって、美希先輩は部員の様子を見ながらスポーツドリンクを作っている。
「あ、やべ!すいません!」
美希先輩と宮近くんを交互に見ていると、左側から声が聞こえた。
足元に転がってきたボールを拾って 顔を上げると、目の前にはさっき部室の前で目が合った男の子がいた。
「ね、もしかして、Aちゃん?」
『え……?』
男の子は、目をキラキラ輝かせて聞いてくる。
どうして私の名前、知ってるの?
「やっぱりAちゃんだよね!?」
『えっと?』
同じ学年の子ではない……よね?
じゃあ、タメ口だし3年生?
「俺!覚えてない!?元太!松田元太!」
自分を指さしてアピールしてくるけど、全く心当たりがない。
『松田くん?』
「げんちゃんってよく呼んでくれてたじゃん!」
『げんちゃん……』
げんちゃん。
そう呼んでいたことがあった子が、過去に一人だけいた。
小学生の頃、1つ下の階に住んでいた1歳下の男の子。
海斗と私、それにげんちゃんと呼んでいた男の子の3人で、地元の自治会が主催する小さなお祭りに行ったりしていた。
夏休みの時に3人一緒にラジオ体操も行ったことがあった。
『げんちゃんって、あのげんちゃん?』
「そう!」
太陽のような笑顔の彼は、海斗と私が小学6年生の時に親の都合で引っ越した。
つまり、会うのは約5年ぶりだ。
256人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:愛生 | 作成日時:2024年1月21日 2時