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「A、俺の方見て」
そう言って私の肩を掴んだのは中村だった。
言われた通り中村のことを見ると、強い力で私の頭にポンッと手を置いた。
「大丈夫」
『本当？』
「海斗、ただの微熱だから」
『微熱？』
「そう、だから大丈夫。それに海斗って回復力ハンパねぇから」
『そうなの？』
「ゲームのラスボスくらいには強い」
『例えがよくわかんない』
「とにかく、海斗は強ぇの。だから大丈夫」
頭に置かれていた手が、わしゃわしゃと私の髪が乱れるくらいに撫でてくる。
いつも通りの中村がいると、私も安心してきたみたいで落ち着いた。
『……そっか』
「落ち着いた？」
『うん。ごめんね、ふたりともありがとう』
ご機嫌な顔をした中村は、私から離れるとすぐに学校に向かって歩き始めた。
「髪ボサボサだから直しな」
私の髪を手ぐしで軽く梳かしてから歩いていった海斗。
『うん、ありがとう』
良い友達と幼馴染を持ったな、なんて思いながらふたりを追いかけた。
学校に着いてから午前の授業を受けて、宮近くんが来たのはお昼休み中だった。
「お、海斗！」
「ちゃか、大丈夫か？」
マスクをしてやってきたけど、ふらついていたりすることはなく元気そう。
「念の為に解熱剤もらってきただけだから大丈夫」
『宮近くん、ごめんね』
「何が？俺 風呂入ったあとに外出て湯冷めしただけだよ」
『え？でも、』
「湯冷め。わかった？」
『……うん』
私のせいなのに、そう言ってくれる宮近くんの優しさは寛大だ。
お返しするものを自分の席から持ってきて、宮近くんに差し出した。
『ジャージとタオルは洗濯済みで、傘は乾かしてあるから。本当にありがとう』
「わざわざ洗濯してくれてありがとうね。俺が勝手に貸しただけだから気にしないで」
宮近くん、昨日私が逃げ出した様子を見ても、何も言わないんだ。
上手く誤魔化せてた？
ううん、きっとそんなことはない。
だって誤魔化せていたら、あの時駅前に宮近くんはいなかったと思う。
恐らく宮近くんなりの配慮なんだ。
『宮近くん、部活の試合近いって聞いたよ』
「うん。3年の先輩たちが引退する前の最後の試合。夏より大きな大会では無いんだけどね」
『応援してるね』
「ん、ありがとう」
宮近くんのサッカーの試合、見てみたいかも。
きっと、かっこいいんだろうな。
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作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
