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「Aが良ければ、また一緒に傘入ってく？」
『ありがとう。お願いしてもいいかな？』
「ちゃんと近くに来てくれるならね」
『それは出来るか分からないけど……』
「んふっ、冗談。いいよ おいで」
触れない程度に近づいて、隣同士並んで雨が降っている外に一歩足を踏み入れる。
宮近くんの肩が濡れないように、少しだけ近づいて歩き続ける。
『……宮近くん、私さっき嘘ついた』
「嘘って？」
『本当は、一人で帰るのが寂しいんじゃないの』
雨が強まって、雨音が大きくなる。
『宮近くんと、もっと話したいって思ったの』
緊張して、聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声しか出ない。
「ん、そっか。ありがとうね」
チラッと宮近くんを見ても、顔色ひとつ変わっていない。
返事も曖昧で、聞き取れたのかすらわからない。
言っちゃダメだったかな？
『ごめんね、変なこと言って』
「変なことじゃないよ。そう言ってくれて嬉しい」
本当に嬉しいって思ってる？
目も合わせてくれないし、今笑顔ではないでしょ。
暗くても、ビニール傘に街灯の光が射し込んで顔を照らしているから見えてるよ。
なんだか気まずくさせちゃった、どうしよう。
『私最近自分でやることなすこと、全部変だなって感じるの。自分でもよくわかってなくて。だから迷惑かけてたらごめんね』
「大丈夫だよ」
『本当にごめんなさい』
このまま宮近くんに嫌われたくない。
それに、これ以上気まずくなりたくなくて。
「濡れるからもっとこっち来て」
私はどうやら無意識で宮近くんから離れていたみたい。
近付きたい、でも、気まずいのは嫌。
嫌われるのも嫌。
『ごめん、私……』
「こっち来ないなら、また掴むよ」
宮近くんと目を合わせると、どうしてか断るという選択肢が消えちゃう。
掴まれるのはもっと緊張しちゃうから嫌。
そう思って一歩宮近くんに近付くと、満足そうに笑う。
「次また傘から出ようとしたら、肉まん奢りね」
『え？』
「だから、出ないように気をつけて」
あぁ、宮近くんってやっぱり狡い。
そうやって離れないようにするんだ。
今だって、私が頷いたらやっぱり満足気に笑顔になっていて、主導権を握られっぱなし。
海斗や中村と接する時、ここまで主導権を握られることはない。
もしかして宮近くんと接する時だけ感覚が違うのはこれのせい？
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作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
