なら逆に ページ4
結局のところ、私が折れた。
黙って会いに行ったところで、あの男の目的は中也への嫌がらせなのだからすぐばらされるだろうし、そもそも中也のことが知りたかったわけで、当の本人に嫌われては元も子もない。
「なら、貴方は私のことを知りたいと思わないの?」
「過去のお前を知ったところで今のお前が変わるわけじゃねぇんだ。聞く必要は無いだろ」
「それかっこいいと思ってるの?ただの無関心の言い訳だわ」
「なら、手前は俺の昔を知ってどうすンだよ!」
どうしていちいち声を荒げるのか。人のことを言えた質ではないが、私と違い声量も迫力も段違いなのだから遠慮してほしい。
少し、苛立っているからこんな風に思うのだろうか。
「好きな人の昔を知りたいと思うことがそんなにおかしいかしら」
いいや。おかしいなんてあるわけがない。
好きだから知りたいのだ。好きだからこそ他人がその人をどう思っていたのかを知りたい。
何故それをそこまで止められなければいけないのだ。
「それとも中也は、私が簡単にあの男に乗り換えそうで怖いの?」
中也は黙った。
この男は図星を突かれると黙る癖がある。
え、嘘。ちょっと待て。そんなに彼女として信頼がなかったのか。
「まってまって、頭が痛くなってきたわ。嘘でもすぐに否定してよ。私がそんなに尻軽な女に見えていたの?」
その都度その都度愛情表現はしてきたつもりだが、中也には欠片も伝わっていなかったのだろうか。
些か、否、かなりショックである。
「…………じゃあ手前は、俺が他の女と二人で会っててもいいのかよ」
ぎょっとした。それはもう言葉通り、ぎょっとした。
大の大人であるはずの中也が、叱られた子供みたいに、瞳にいっぱいの雫を溜めて泣くのを我慢しているのである。
「え、ちょっと、嘘でしょ、ごめんなさい、えぇっ」
折れたというより、折れざるを得なかったと言った方が正しいだろう。
泣かせてしまったことに(まだ泣いていない)罪悪感を感じる以上に、私はあろうことか母性をくすぐられてしまったのだ。
泣き顔(何度も言うが泣いていない)が可愛く見えるのはきっと、私が彼を好きだからフィルターがかかってしまっているから。
「ごめんなさい、私が悪かったわ。もう他の男の人と会ったりしないから泣き止んで」
「泣いてねぇ!!」
「今日は私がご飯を作るから許して」
「………しょうがねーな」
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謝花 - 続編おめでとうございます! (2019年9月16日 8時) (レス) id: 157490c8f1 (このIDを非表示/違反報告)
天草嶋(プロフ) - 柚子豆腐さん» 更新ありがとうございます…!凄く楽しみながら読ませていただいています!私自身太宰も好きなので太宰が夢主に言った「私にしなよ」って言う台詞に凄く(良い意味で)頭を悩ました(大歓喜)それに構わず安定してる夢主も最高です…今後も更新楽しみにしています!! (2019年8月14日 22時) (レス) id: be6bb92be5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうくん(白夜)(プロフ) - このお話大好き!! (2019年8月13日 11時) (レス) id: 891a01bcc7 (このIDを非表示/違反報告)
柚子豆腐(プロフ) - 天草嶋さん» コメントありがとうございます!私自身書きたい話がいくつかできたので書かせていただくことにしました!ご期待に添えますよう頑張りますので続編でもどうかよろしくお願いします。 (2019年8月13日 2時) (レス) id: fe52aa1231 (このIDを非表示/違反報告)
天草嶋(プロフ) - 続編が読めるなんて夢にも思っていませんでした…!凄く嬉しいです。また新たな中也と夢主の絡みが観れると思うと本当に嬉しいです!私の願いを叶えてくれてありがとうございます!これからも更新心待ちにしています!! (2019年8月12日 18時) (レス) id: be6bb92be5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柚子豆腐 | 作成日時:2019年8月12日 0時