嗚呼、愛しい君よ【中原中也】

その人物 ページ11

「そこの人質を解放して!!」

「なんだてめぇ!!」

「私はここの責任者よ！うちの可愛い従業員に乱暴な事しないで！代わりに私が人質になるから!!」






現在人質になっている従業員の皆様はぽかんとした面持ちである。


だよね。だって責任者である社長は今私の目の前で縛られているもの。なんのことやらさっぱりだろう。


するとどこからか、思いっきり噴き出したような音が。誰だこんな非常時に笑っているのは。






その音がした方をみると、肩を揺らし顔をうつむかせたぼさぼさ頭で砂色の外套を着た、先日あったばかりのその男がいた。




何故ここにいる貴様。


神出鬼没にも程があるぞこの男。







「社長！私たちの為に命を張るなんて！私たちのことはいいから逃げてください！」






すぐさま私の作戦を理解してくれるのはありがたいが、どうせなら迫真の演技をしてくれ。


やめろ、目をキラキラさせるな。






「おい、どうやら本物みたいだぞ」

「そうだな。そこの女を拘束して他の奴らは解放してやれ」






お、こいつらあほだぞ。助かった、騙されやすい馬鹿で。


両腕を結束バンドで拘束され、乱暴にも床に転がされた。ちょうど太宰君の隣に転がされたのでぼそっと小声でどうしてここにいるのか聞いてみた。


すると太宰君はにこりと笑って、何も答えなかった。挙句の果てには。






「社長一人をこんなところに置いていけません！私も人質としてここに残ります！」






何を言ってやがるこの男。


頭を抱えたくなったが、両手をふさがれている為それは叶わず。


今、中也の過去の苦労が見えた瞬間であった。






そして人質は解放された。私と太宰君をこの場に残して。


しかし後のことは中也に丸投げしてあるので、あの脳筋ならすぐに突撃してくるであろう。






「あの後中也に怒られた？」






それはいくら小声と言えど今聞くことじゃないだろうと思ったが、この男に常識など通じないことを私は学んだ。






「貴方のお望み通り大喧嘩したわよ。まぁもう仲直りして今日はデートの予定だったんだけど」

「あぁ、それでそんな恰好をしてるわけだ。ついに森さんが幼女趣味を脱却したのかと思ったよ」






いくら幼女趣味を脱却したとしても成人女性を着せ替え人形にしていたらそれはそれで問題があるだろう。パワハラにセクハラである。

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