さよなら代役Ⅲ【8人目】 (ページ5)

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心なら痛いのに【緑】ページ5

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Aちゃんは僕の顔を見ると手を振った。

「おはよう」と何の気なしの、何回繰り返したか分からないその言葉。

楽屋のソファに座る、素足に履かれたミュールを見る。

……ああ、白い足やな。

「気い付いた？」

「なにが」

「マニキュア、あ、じゃなくてペディキュア」

「新しくしたん」

「それも。」

「それも、って」

「色、」

「なに、はよ言うてや」

「一緒でしょ、色が、ね。」

血が引く音が、耳の裏で鳴る。

その色が、俺は何処に塗られているか知っていた。

その所有の証が、成立の証が、煙のように目に染みた。

ついにあの思いはぶちまけられたのか。
そして、それは綺麗に拾い集められ、
今はAの腕の中で、抱きしめられている。

「……知らんかったのって、もしかして」

俺の呟きに、Aはマネに視線を飛ばした。

罰の悪そうな笑いを浮かべ、マネが小さくこちらに会釈した。

「まあ、それだけと言えばそれだけやな」

そんなこと、言うなや。
それだけ、その言葉の重さが痛さが、圧し掛かる。

「あ、大倉くん、今日空いてる？」

空いてへんって言いたい。
会いたくないって、そうやって言わないと。

「うん、ええけど」

ああ、言うてしまった。

いつもこう。この子に関してはいつも。

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「どうなるかは分かれへん。
でも迷惑は掛けへんから絶対。」

美味くもない酒を飲む。

いつもと同じ、君の恋を肴に、楽しそうな君の顔を見て。

違うのは、君の温度。
今回は落ち着いて話して、何も迷っていない。

「相談」だったものは「報告」に変わって、
なのに、俺は平気な顔で聞いてるんやろう。

「大倉くんと、私、約束したのになあ。」

「…え。」

「忘れてもうたよなあ。
昔さ、大倉くんのお嫁さんになる予定やったやんか。
……なんか守れなそうや、ほんまごめん。」

けらけらと陽気に笑うその声が遠くに感じて
俺はいつもの悪い癖で合わせて何となく、笑った。

別に期待してたとかやない。
どうにかなりたかった訳でもない。

ただ、過去の片思いの終焉を見てしまっただけで。

ドライフラワーの薔薇が握り潰され、砕け落ちるような
そんな幻覚が、俺の網膜に焼き付いた。

悲しくって、また僕は笑った。

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