息切れ上等 ページ2
息切れ上等【A】
「周りみんな格好いいんだからさ、好きになっちゃうとかないの？」
「ないですよ」
「ほんとに？」
「全員、親戚みたいな感じですって」
誘われた食事会で、近年とんと聞かれなかった質問が飛ぶ。
これだけはみんな、聞いてもまだ聞き足りないと見える。
ああ、皆誤解している。
私が、この事務所の中で酒池肉林の
逆ハーレムを築いているという妄想に取り憑かれているのだ。
そうだったら、楽しいだろうな。
いや、分からないけど。
私は、8歳からこの事務所に居させてもらっている。
その中で、別に誰かとそういうことになったことはない。
信じられないかもしれないけれど
事実は変わらず私は、ずっとそんな感じである。
いや、恋愛云々よりもみんな
私を扱うことすら、苦労したはずだ。
私はいわゆる事務所のお気に入りのくせに
男の子でも、ましてやちゃんとした女の子でもなかったから。
一緒にレッスンを受けていたようなjrは
私のことを、本当に男の子だと思っていたらしいし
バレたというか、色々わかった後も
『この子はjr止まりだろう』と静観していたという感じだ。
それは、先輩もそうだろうけど。
ここまではあんまり子供で特に恋愛なんてことはない。
それどころではなかった、と言っても良い。
15歳でデビューしてからも変わらなかった。
『男子校の女の子』妄想みたいに巧くはいかない。
周りに、可愛い女の人が沢山居るのに
わざわざ『男に近づきたい女』には皆、手を出さない。
後輩なんて、尚の事である。
怖い先輩の中にいる、さらにヤバい奴、それが私。
誰も好きになったことはないというのは、言い切りすぎだけれど
私はあまりにその『男子校的世界』に入り過ぎて
男の人に対しての強い羨望を抱えると同時に
しょーもなさや本音も知ってしまっていた。
一生懸命走ってきて、その中で必要とされてこなかったのだから要らないものなのだと思う。
それに、私はとても幸運で、返す恩がたくさんあって、忙しい。
私が言い流すと、話題が逸れて次の話に移った。
変に緊張していけない。
それにしても、こんな会は無駄だ。
早くみんなの居るような自分のホームに戻りたい。
だめな私を、受け入れてくれて許して
甘やかしてくれる、あの人たちの所へ。
そんなことを考えてまたアルコールを腹に入れた。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年2月27日 11時
