さよなら代役【8人目】 (ページ35)

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伝えるために会いに行く【A】

7月。
夏が来た。

ライブが始まる。

長い長い準備と大勢の人の力を借りて
私達は、みんなにありがとうを言いに行く。

出会える人は少なくて伝えられる時間も、短い。

でも全力で、本気で、最高に。

ファンの人たちも、その数時間のために
嫌なことを積み重ねて、日々を堪えて、綺麗にして
私達のところへ来てくれる。

そんなみんなが私の誇りであり夢であり、希望だ。

ファンは孤独だ。

毎日公演をするエンターテイメントならもっと頻繁に会える。

毎日配信をするエンターテイメントならもっと見ていられる。

でも私達は違う。

いつもはテレビ越しにしか会えないし
CDはいつ出るかわからないし
チケットの倍率は高いし
ライブも決定事項ではないし
映像化の危うい時もある。

それでも、私達を選んでくれた。

だから愛してるって言いたい。

『会いに来てくれてありがとう』

『会えなくても大好きやで』

『言いたいことはいっぱいあんねん』

『でも言いきれへんから、歌をうたうよ』

ファンの人たちの前だと素直で居られる。

そんな自分のことは割と好きだ。

この世には報われないことが多くて辛いことばっかりで
生きてくのは、しんどくて苦しい。

私は苦しい時に、ちょっと笑えたり、ちょっと見たくなったり
ちょっと気になってもらえる人になりたいとずっと思っていた。

私にとって、一番悲しかった時。

こっそり見たテレビと布団に隠れて聞いた音楽が
私を生かし続けた。

別に、私の存在程度で救えるものなんか一つもない。

そんなことは、分かっている。

でも、私が笑うことで歌うことで、演技することで
誰かの広角がちょっとでも上がればなとは夢想する。

妄想だけど、私はやっぱり
こんなことばかりを考えてしまう。

エイトのみんなは、ちゃんと格好良くて男の人で
それだけでもすごいのに努力までしてしまう。

私が、エイトや他のグループの人にも負けないようにするには
やっぱりそれを上回る努力と愛の還元に努めるほかない。

お仕事は楽しい。
みんな優しい。

私にとっては苦しみのエンストを起こしていた時代のせいで
少し脳がおかしくなっているので
あまり色々が苦しくない。

だから、酒池肉林のハーレムを築かなくても
私は生きているんだと思う。

多分。

こんなことばっかり言ってますが。

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