○ ページ22
たったの1週間。たったの7日間。こんな数日で。
いつの間にか彼は私の家だけではなく心の奥にまで居座っていたらしい。
じゃなきゃこんなに寂しくなんて思わない。
「帰って欲しくねェって受け取っちまっていいのか、それ」
『…そうは言ってない。エースは早く帰らなきゃ』
「俺は帰りたくねェと思ってたところなんだけどな」
帽子を上から押さえて覗き込んでくるエースはいたずらっぽく口の端を釣りあげていた。
1秒後に自分がそこにいられる確証もないくせに何をそんなに自信ありげに言い始めるんだ。大体、帰りたくねェって言ったって自分の意思とは無関係にこの世界に来たのだから帰る時だって無関係に…
『帰れそうに、ないの？』
「あぁ、海に来たらなんか感じるかと思ったけど何も…懐かしいなーくらいで」
え、それじゃ何。今の茶番。
あの神妙な表情が嘘のようなこのにやけ顔。
『だっ騙したな！？』
「人聞きの悪いこと言うなよ、騙しちゃいねェだろ」
た、確かにエースは帰って欲しいんだろ、と私に問いかけただけ…でもあんな表情されたら誰だって本当に別れだと思うに決まってるのに…！
こやつ、意外と性が悪いな。
私がムキーッと敵意をむき出しにしているとまた困った顔をうかべた。
「冗談なんかじゃ、ねェよ。
俺はお前に迷惑をかけてる。さっさと帰れと思われても仕方ねェ。俺も自分の世界に帰らなきゃなのも分かってる。
金だって、俺のせいで色々使わせちまって。だから今日海に連れてこられたんだって思ったんだ。
お前の顔見て、本当は嬉しかったんだ。
望まれてない存在の俺が居なくなるのをお前が悲しんでくれたから」
騙されない、騙されないぞ…と思いながら聞いていたはずなのに、心の奥にすっと入りこんでくる言葉は胸を打った。
そんなふうに、思われていたのか。
気にしなくていいとは言ったけど、お金が無い現実は私よりも彼を追い詰めてしまっていたのかもしれない。
「俺、本当にいつ帰れるか分からねェ。全然、検討もつかねェ。
だけど…まだお前の家に、お前のそばにいていいか？」
何を今更。
覚悟ならもうあの日に決めて腹も括っている。
けどさっきのことは腑に落ちないのでくるっと海に背を向け歩き始めた。
え、は、ちょ…！と狼狽える声を聞いて少しだけ気が晴れた。
『今日の目的はここだけじゃないでしょ。
買い物、行くよ』
照れくさくて歩く足のスピードを少しあげた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 251人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葵(プロフ) - めりーさん» めりー様コメントありがとうございます。全部ありがたいお言葉すぎて感涙です…！今後とも楽しんで読んでいただけるように頑張りますのでよろしくお願いします！ (2023年3月13日 9時) (
レス) @page32 id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
めりー(プロフ) - 続編行くんですねっ！😆✨とても大好きで読ませてもらってます！文才がすごくて憧れます😌🙏💫応援してます🔥ꉂꉂ📣 (2023年3月11日 22時) (レス) @page46 id: 4d1819db53 (このIDを非表示/違反報告)
葵(プロフ) - ココナッツさん» ココ様！前作に引き続きコメントありがとうございます。笑っていただけて光栄です笑。これからの展開もぜひ楽しんでいただけると嬉しいです！今後ともよろしくお願いします。 (2023年2月26日 7時) (レス) id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
葵(プロフ) - 十六夜紅葉@斎藤一推しさん» 十六夜紅葉様コメントありがとうございます。応援とても励みになります。これからもよろしくお願い致します！ (2023年2月26日 7時) (レス) id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - 葵様こんばんは。新作早速一気読みしてしまいました´`* 私5話の｢あ。結構馬鹿だ、この人。｣が好きすぎてつい笑ってしまいました(笑) 夢主さんとトリップしたエースさんのこれからが楽しみで仕方ありません…!! 今作も応援してます (2023年2月25日 23時) (レス) @page5 id: a1f85287cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葵 | 作成日時：2023年2月23日 12時
