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すっとエースは膝を落とすと黙って頭を下げた。
この船に乗った頃の彼ではありえなかった。やっぱり親父はエースの拠り所になり得る人だった。
「ひとつ、聞かせろ。エース。俺が親父で、良かったかァ？」
「ッ……勿論だッ！」
拭っても拭っても涙が止まらない。
優しくて、頼りになる親父と過ごしたなんてことない日常ばかりが次々にフラッシュバックする。
こんな世界から嫌われて追われた私を拾ってくれた唯一の人。
追われる身の私を、ドレイとしてしか生きられないほど生き方の歪められた私を導いてくれた人。
素敵な兄弟たちと、大好きな人と巡り合わせてくれた人。
感謝なんて言葉にできない。
「許せ、アイリン。おれが約束破っちまうなんてなァ、おめェの花嫁姿だけが少し心残りだ。どんな宝よりも綺麗なんだろう。
幸せにやれ。アイリン、エース」
『………ッ…親父ィッ！！』
ばっと勢いよく涙を振り払うように頭を1度ぐっと下げる。
宙を舞う水滴が煌めいて落ちた。
心の中で溢れるだけのありがとうを叫び、もう一度勢いよく顔を上げた。
もう、泣かない。
きっと不格好で綺麗とは呼べない代物だっただろう。
『愛してるよ！！』
精一杯の笑顔で。
親父の覚悟は受け取った。
親父に背を向けた瞬間に不安がおしよせてくる。
あなたのいない世界を生きていけるのかという不安。
それでも、私は幸せになるよ。
それがあなたの船長命令じゃない、世界一かっこいい父親の望みだと言うのなら。
親父に背を向けて走り出した。
二度と振り返らないように。
「俺も愛してるぜ、我が娘よ」
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作者名：葵 | 作成日時：2023年1月12日 8時
