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2ヶ月はあっという間に過ぎ去った。
言葉通り死にそうになりながら毎日特訓を受け、毎日新聞を読み世界の知識を叩き込んだ。
そして、私は今日半年お世話になったこのモビーディック号を降りる。
ナースさんたちは私が船からおりると伝えた日のように号泣している。他のクルーたちも泣いていたり、頑張れよーと笑ったりしている。
『じゃあ行くね』
「…本当に行くのか」
『イゾウ…まだ言うの？』
「…あァ、これ以上は野暮だな。
これを」
『これは、マスク？』
「顔は隠しておくに越したことはないだろう」
『ありがと。大切にする』
「そんな丈夫なものじゃない、また新しいのを買え。
必ず、生きて戻ってこい。いいな」
『うん！約束するよ。私はもっと強くなってここに帰ってくる、それまでみんな待っててね』
荷物を背負い、フードを被り直すと振り返り向き直った。
この半年間のことを私は一生忘れない。
大きなモビーを眺め、見送りに出てくれたみんなを見渡す。こんなに沢山の人に見送ってもらえるなんて、考えもしなかった。
『半年間、お世話になりました。本当にありがとうございました。
そして、いつか必ず帰ってきます。その時まで、お元気で。
行ってきます！』
私は白ひげのナワバリの島に降ろしてもらった。私が降りたのを確認すると、船は再び出航した。
ナース長、イゾウ、サッチさん、ハルタさん、ティーチ…
船長さんまで甲板に出て私を見送ってくれていた。
マルコ、居ないな…
この2ヶ月マルコとはあまり話せなかった。彼が私を避けていたような気がする。私も無理に話しかけに行こうとしなかった。
少しだけ、寂しい。
でも、また帰ってきた時、それが何年後になるか分からないけどいっぱい話そう。
遠ざかる船を見つめ改めて覚悟を決めた。
＊
「よかったのか、見送り行かなくて。寂しそうだったぞ、お嬢」
「……いい歳して情けねェが、見送れるツラじゃねェ…かける言葉も思いつかねェ…こんなんであいつの旅立ちに立ち会えねェよい…」
「お前がここまでとは珍しいな。ま、死にかけのところからずっと面倒見てきたもんなァ。お前もよくやったな」
「やめろよい！俺だってこんなつもりじゃなかったよい。
でももうあいつは、アイリンは、俺たちの妹なんだ…！」
「あァ、勿論だ。
だから信じてやろう、俺たちの妹を」
青空の高いその日、雛鳥はひとり広い空に旅立った。
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作者名：葵 | 作成日時：2023年1月12日 8時
