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「手馴れたもんだなァ。練習したのか」
『ッはい……シャロンさんに、教えて貰って…』
「招待状もらってそんな時間経ってねェってのに大したもんだよい」
『…あ……あの！ま、るこ、さん…！』
「ッ……ん？」
『あの日、私を助けていただいて、本当にありがとうございました』
あんまりにも綺麗で見とれた、だなんて。
ずっと緊張していた彼女だが今日1番自然と言葉を紡いでいた。
20も歳の離れた娘に思うことでは無いのだろうが、自然と上がる口角、細められた目元、飾り気のない笑顔が元の顔の美しさをひきたてていた。
「…ッ気にすんなよい、お前が元気になったんならそれでいい」
「でも私お礼も言わずにあなたに無礼な態度を…」
「あれは防衛本能の一種だよい。お前の体が反射的にお前のことを守ろうとしただけだ。何も悪いことじゃない。
それに何より、礼なら今言ってくれたじゃねェか。
今こうやって面と向かって話してくれてるだけで、十分すぎるくらいだよい」
『…どうして、そんなに優しいの…』
「俺は誰にでも優しくなんてしないよい。お前が頑張るから、力になりたいと思うだけだよい」
『私が…？』
「そうだよい。
お前の体が懸命に生きようとしたから、俺は命を繋いだ。
お前が俺に歩み寄ろうとしてくれたから、俺は手紙を返した。
お前が怖さも乗越えて俺と会おうとしてくれたから、今日ここにきたんだ。
お前が動かなきゃ、俺は何もしてないよい。お前が頑張ったんだ」
どれだけ足掻いても、もがいても、手を差し伸べてくれる人なんていなかった。
何度逃げ出しても伸びてくる手に救いの手は1本もなくて地獄に引きずり下ろすための手ばかりだった。
その度に生きていちゃダメなのだろうかと思った。
もしそうだったとしても、世界中が私を地獄に落としたかったとしても、
今こう思うことだけは許して欲しい。
『…ッ生ぎて、きて……ッよがった…！！
……ぅ…ッ…あり、がどう……ぐす……』
「！！
……怖がらせたらごめんよい、ちょっと我慢しな」
その言葉に顔を上げると大きな手が伸びてきて
反射的にギュッと目を瞑るとその手は柔らかく私の頭に着地した。
こんな優しい手が怖いわけない。
そのまま2回3回とゆっくり頭を撫でられるといつの間にか涙は止まっていた。
「どういたしましてよい」
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作者名：葵 | 作成日時：2023年1月12日 8時
