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『私に、キスして』
波音も風が揺らす音も呼吸音も全てが消えた。ただ幻聴か聞き違えるほどの言葉だけが鼓膜を揺らした。
思わず体を一度離すと俺の目を強く見返すAの瞳。
「ッは！おまっ、何言ってんのか分かってんのか…ッ！？」
『…分かってるよ…ッ！」
あまりの衝撃に頭から飛び抜けていた彼女の事実がその少し歪んだ表情を見て思い出された。
__同僚に迫られて無理やりキス、されたのッ。
膝に顔を押し付けて話していたからあの時のどんな顔をしていたかは分からない。ただその時のAの声は話すのもやっとなほど震えていていた。泣いていたのかもしれない。
「…本当に俺でいいのか」
『エース以外に頼めない…！』
Aの瞬きとともに小さな水飛沫がはねた。
何言ってんのか分かってんのか、だなんて俺が何言ってんだ。
どんな覚悟でこの言葉を俺に伝えてくれたことか、俺に分からないわけないだろ。
俯きかけた女の頬に手を滑らせて少し濡れた目尻を拭う。反射的に目を細めた彼女はもう一度俺を見つめ返す。
「泣くな、A。
俺じゃない男にキスされて泣かされたんだろ。
俺は泣かせたくねェ……いや、泣かせねェ」
『…ん、泣かない』
さっきより泣きそうに目を潤ませながらそう言いきったAはギュッと目を閉ざした。
彼女の体を自分に密着するほど引き寄せ、髪を払うようにもう一度頬を撫でる。
キス、するんだ俺…Aに。
__本当にこのまましていいのか？
「……悪ィ、A中途半端のままじゃ俺はお前にキスできねェ」
『……？へ』
向こうで言わないで欲しいと言われた一言。
Aがそれを言葉にすることもされることも怖がっていることは知っていた。だから今まで直接言葉で伝えたことは無かった。
けど、もう伝えずにはいられない。
彼女を傷つけただろうか。少し胸の奥がチクッと痛む。
「ッえ…」
『…私も、エースが好きだよ』
俺の服の裾をぎゅっと握って月明かりに煌めく雫をこぼした。
彼女の声は震えていたが確かに好きだ、とそうはっきりそう言いきった。
その言葉の重さを俺は知ってる。
柔らかな頬を押さえ、自分の顔を近づけると今度は静かにそっと目を閉じた。
ありがとな、A
俺はそっとその小さな唇に自分のそれを寄せた。
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葵(プロフ) - 十六夜紅葉@斎藤一推しさん» 十六夜紅葉様、前作に引き続きコメントありがとうございます。応援とても励みになります！これからも楽しんでいただけるようなお話を更新していきますので宜しくお願い致します！ (2023年4月1日 21時) (
レス) id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
十六夜紅葉@斎藤一推し(プロフ) - 続編おめでとうございます！面白いですね！これからも更新頑張ってください！！ (2023年3月31日 9時) (レス) id: 25ee4b6236 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葵 | 作成日時：2023年3月30日 13時
