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しばらくお互いそのままふたりただ静かな海音を聞きながら黙ったままでいた。
雲が流れ去った空にはもう傾いた月が大きく輝いていた。
『…綺麗』
ほぼ無意識にこぼれた言葉にはっとした。
日本の偉人にはあの月の美しさを愛の告白にして伝えたという人がいた。向こうの世界じゃ粋なセリフと有名なあの一説。
さ、さすがに知らないよね…？
ひとりで勝手に緊張して鼓動が早くなる。伝わってないだろうか。
「…お前の方が、綺麗だ」
『ッ！』
顔が、熱い…
月が綺麗、なんて言葉とは180度違う。王道一直線を貫いたような一言。でもそれは王道であるからこそ心にストンと入り込み心拍数を押し上げていく。
そして前に回った彼の熱を持った手は私の手を握りこんで離さない。
もう、0時を回っているから今日でちょうどこちらに来て2週間だ。いつ私は向こうに戻ってもおかしくない。エースは2週間と1日、あの本にも2週間程度と記してあったから仮に猶予があったとしてももう数日だろう。
また、この温もりが消えてしまう…
『…私、もうすぐ消えるの』
「は？」
『エースみたいに元の世界に戻されるの』
「は……いきなりなんだよ…」
『エースが向こうにいたのは2週間でしょう。私も今日で2週間。もういつ消えてもおかしくない』
「ッ分かんねェだろ、そんなん俺がたまたま2週間で」
『あの本に、書いてあった』
「…てことは…じゃああの本は本当に異世界の…」
『エース』
衝撃に少し緩んだエースの腕をいいことに時分の体制を横向きにして彼の顔を見つめた。
驚愕に溢れた彼の表情を両の手で包み込むと自分と目が合うように少し下に向けた。
『私はまたここに来る。それまであの本はエースが持ってて。ただし、私が次に来る時まで絶対に読まないで』
「また来る…って、そんなこと出来んのか？本を読むなって…ちょっと待て頭が追いつかねェ…
お前、本当にいなくなるのかよ…」
信じられない、というように瞳が揺れる。
その瞳は迷子の子供のようで不安に駆られている。
黙ったままの私に現実を感じたのか私の頭を抱き寄せ、耳元でか細い声が届いた。
「行くなよ」
私も行きたくない。
帰ったってもう母はいない。なにもない。ここにいた方が私はきっと幸せだ。
だから、消える前にひとつだけ…
『私のお願いを、聞いてくれる…？』
私を抱く腕に力が篭もる。
『エース』
___私に、キスして。
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葵(プロフ) - 十六夜紅葉@斎藤一推しさん» 十六夜紅葉様、前作に引き続きコメントありがとうございます。応援とても励みになります！これからも楽しんでいただけるようなお話を更新していきますので宜しくお願い致します！ (2023年4月1日 21時) (
レス) id: d6d31879de (このIDを非表示/違反報告)
十六夜紅葉@斎藤一推し(プロフ) - 続編おめでとうございます！面白いですね！これからも更新頑張ってください！！ (2023年3月31日 9時) (レス) id: 25ee4b6236 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葵 | 作成日時：2023年3月30日 13時
