師匠は語らない 2 【新】

師匠は語らない　拾 ページ19

「……じぃちゃん、元気かな。」


７月上旬。空が厚い雲に覆われる時期になった頃。ゴロゴロと唸るような空に、魔慧はぼそりと呟く。
魔慧がここにきて、何年と言う年月が過ぎた。
人の思考も段々と代わり、物や文化までもが異様な変化をとげ始めている。


「ん？何か言ったか？」


不思議そうに首を傾げる大ガマに、魔慧は何でもない、と首を振る。この所、梅雨に入り始めたせいか、雨は毎日のように降り続けていた。
朝の稽古もない、湿気の多いこの季節は、妖怪になった今でも、お気に召さないらしい。


「……雨ばかりで嫌気がさすな、一日でも晴れれば良いのだが。」


「え、そお？俺結構雨好きだけど。」


ルンルン気分で空を眺める大ガマに、土蜘蛛と魔慧は納得できないようで、苦笑している。
黒い雲をしばらく眺めていた３人に、師匠はふと声をかけた。


「雨が降ると子は、番傘も持たずに外に飛び出して遊ぶものではないのか？」


「いや、年考えたら素直に喜べねぇから。」


魔慧はそう言うと、また空を眺めた。
厚い雲は風に流されることもなく、一層暗さを増して、そこに漂い続けている。
時折吹くなま暖かい風からは、雨の降る前に匂う、特有の匂いがした。


「なんか、豪雨になりそうだな……」


魔慧は何気なく呟いて、何も考えずに、ただ空を眺め続けていた。

それから数時間後、周りが見えなくなるほどの雨が降る。

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